PACIFIC WAY

ミクロネシア研究資料シリーズ
  ミクロネシア資料文献解題−その22−


(財)アジア会館・アジア太平洋資料室
室長  山口洋児(やまぐち ようじ)



謹賀新年
 今年もミクロネシア関係文献解題を続けせていただきますので、よろしくお願い申し上げます。
 このところ、大変難しいご質問を何通かいただき少々音を上げていますが、読んで下さっている方々がいらっしゃることがわかり、今後もそれを励みに、気分を新たに解題を続けたいと思っています。 
 
『日独海戦史(原稿)』
大正4年(1915)  1154頁。
※ 海軍の原稿用紙にペン書きされた第一次大戦の戦記である。別に参謀本部による日独大戦史3巻が出版されているが、これは陸軍の戦闘史で、海軍の太平洋における索敵行はほとんどふれていないので、軍令部による本原稿は貴重なものといえよう。
 原稿用紙400字語1154頁におよぶ大作である。これは開戦の事情と青島(チンタオ)の占領から始まり、エムデン、コルモランなど、ドイツ太平洋艦隊がパガン島に集結し、石炭を積んで太平洋に出撃したのを追って、日本の第一、第二南遺隊が出撃。追撃したが結局ドイツ艦隊とは会えず、ミクロネシア各島を占領して帰国するまでの詳細な記録である。内容は、以下の通りである。
第一編  開戦
第二編  青島方面
第三編  支那海印度洋方面
第四編  太平洋方面
 本稿に直接関係のあるのは第四編で、第一南遺支隊の索敵と各島の占領、第二南遺支隊各島占領とその後のドイツ艦隊の戦闘、そして日本海軍の凱旋までの記録である。
 本稿は鎌倉の切手収集家荻原氏の所有になっており、本資料室には全文コピーを許され製本したものがある。
 
『日独戦役海軍一般行動概要』大宅大尉
大正4年(1915)   100頁。
※ 海軍大尉大宅氏による、第一次大戦の海軍の行動概要で、前記の大冊の概要である。これも前冊と同様に荻原氏の所蔵になるものをコピー製本させていただいた。
 前記の原稿と同様に、印刷に附された様子がなく、各図書館や関係機関で調べてみても印刷発刊されてはいないとばかり思っていたが、靖国神社の文庫、昭和館にあるとの情報を得た。近日中に確認する予定である。
 
『村落裸記』和田伝  協和書院 
昭和12年(1937)  262頁。
※ 農民作家和田伝による随筆集。中にパラオの農村に関し、「アルモノグイ村」、「大酋長の家」、「バベルダオブ島」、「コロール島」、「イナシヤ」などの項がある。本書は他の農民作家の開拓村記とは異り、現地民の様子が書かれているのが特徴である。これによると、現地民は意外に豊かで、日本人入植者のほうが生活が苦しい様子が描かれている。文学作品ではあるが、現地の様子がよく観察されており、色眼鏡を通してみることが少なく、興味深く読める作品集である。
 
『海の子魂』原道太  誠美書閣 
昭和18年(1943)  219頁。
※ 「海洋少年団南洋遠航実記」と副題を添えた青少年向け内容の航海記。海軍のバックアップのもとつくられた海洋少年団は、海軍大佐原道太を団長に海洋に親しむ少年を教育せんと結成され、昭和九年、アジア一帯から東南アジア、日本統治領南洋群島を一周する航海を実施した。本書はその一万三千海里の遠洋航海記である。
 使用した船舶は160トン、ブリガンチン型補助機関付きの小型帆船で、これに13〜23才の海洋少年団員が乗り込み航海した。航路は東京発、神戸、呉、奄美大島、那覇、台湾、マニラ、サイゴン、バンコク、シンガポール、インドネシア、(バタビア、スラバヤ、マカッサル、ダバオ)を経てパラオ、ヤップ、サイパン、小笠原を見学して館山へ帰着した大航海で、160トンの小機帆船としてはいささか無茶な航海であった。
 船名は義勇和爾丸といい、皇室の御用船を下賜されての出発であった。昭和10年に一度、ガリ版刷りで航海記が出版されているが、昭和18年になって正式に発刊された。表装は赤松俊子によるものであった。
 
『ミクロネシア憲法集』矢崎幸生  暁印書館 
昭和59年(1984)  225頁。
※ ミクロネシア4カ国の憲法の翻訳。ミクロネシア4カ国(北マリアナ諸島、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国、パラオ共和国)は各々アメリカとの強い結びつきの中、自治領、独立国として憲法を有している。この国々の憲法の原文は英文であるが、矢崎教授によって日本語に訳され、解説され出版された。これによって、ミクロネシア地域を学ぶ者は安心して憲法に関する研究を行うことができるようになった。貴重な参考文献といえよう。