PACIFIC WAY

第26回定時総会 記念講演会
   「太平洋・島サミットを振り返って」    

外務省欧亜局大洋州課
 松井敬一(まつい けいいち)

                           2000.5.16 アジア会館:於
   1.概 要(日程)                  
       (概要と評価)                
   2.Makig of PALM 2000                
       (太平洋地域への関心)            
       (九州沖縄サミットとの関連)         
       (関係者の知恵)               
       (パブリシティの確保)            
   3.成果(太平洋フロンティア外交(若者・海・未来)) 
      (1)持続可能な開発に対する協力        
      (2)地域及び地球規模の共通の課題       
       (日本とSPF諸国の間のパートナーシップの強化)
       (基調演説)                 
       (宮崎イニシャティブ)            
       (宮崎宣言)                 
       (環境声明)                 
   4.今後の展望                    
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1.概要
 
(概要と評価)
 今回の「太平洋・島サミット」で具体的に何が話されたか、どういう成果が上がったかについてご説明申し上げます。

 太平洋・島サミットを行うにあたって、わが国の太平洋島嶼国に対する外交姿勢を示す一つの理念というかキーワードが欲しいと思っており、後で詳しくご説明しますが、それを「太平洋フロンティア外交」としました。

 そのキーワードとして、「若者」「海」「未来」という3つの副題をつけました。太平洋の若者たちが手に手を取って海という広大なところに向かって未来を切り開いて行く、というイメージです。さらに積極的に太平洋外交を展開していくという点で、具体的に今後太平洋の島々に日本がどういう貢献をしていくつもりか、あるいはできるかをまとめたのが「宮崎イニシアティブ」です。

 大きく分けて3つの議題で会議を進行しました。一つは「太平洋島嶼国の持続可能な開発」。ここには開発協力的な側面を持つ内容です。それから「地域及び地球規模の共通の課題」として、環境、あるいは人間の安全保障にかかわる問題を取りあげました。3番目には「日・SPFパートナーシップの強化」、ここは人と人との交流を通じてもっと仲良くなり合おう、心と心の交流を深めよう、という側面での議題といたしました。

 その他に、刷り物として配布したのは「太平洋・島サミット宮崎宣言」。これは日本と太平洋島嶼国が太平洋・島サミットを終え、これこれこういうところで共通の認識に立ったという事項を声明文としてまとめたものです。さらに「太平洋環境声明」も採択しました。これは環境、特に気候変動や地球温暖化にともなう海面上昇等、まさに太平洋の人たちにとっての生存権にもかかわる重要な問題だとの認識で、これを声明の形で表わしました

 島の首脳側から「今回のサミットは非常に良かった、できれば定期的に開催して欲しい」との期待が表明され、森総理からも「2、3年に1回を目途に考えよう」との発言があり、定期化の方針が両者で確認されました。
 

 次に評価ですが、自慢話的な部分が多くなり恐縮ですが、私どもとして、今回上がったのではないかと思われる成果を申し上げます。一つは森総理に3日間太平洋の首脳と、東京でも宮崎でも一緒に過ごして頂いたこと。その間、島サミットの議事自体もさることながら、宮崎県側で工夫してくれた歓迎行事の中でも、いろいろと意見交
換ができ、互いに親睦を深めました。これは極めて重要なことだと考えております。

 二つ目は繰り返しになりますが、先程の「太平洋フロンティア外交」。「宮崎イニシアティブ」などを通じて、わが国の今後の太平洋外交の在り方というか姿勢を、今回はっきりと太平洋の島国に伝えられたこと、これも大きな成果かと思っております。

 三つ目もやはり繰り返しですが、「宮崎宣言」、「環境声明」という良いものができました。九州沖縄サミットにつながる有意義な議論、島サミットで出てきた島からの意見、環境問題、あるいはIT推進というような情報革命の部分等で、九州沖縄サミットにもつながっていくであろう、と思われる成果をG8の前に残すことができ、これも良かったと思います。
 
 
2.Making of PALM 2000
(太平洋地域への関心)
 2番目に入ります。「メイキングオブパーム2000」とちょっと粋がって書いてみたのですが、実際われわれが準備の過程で考えたこと、やって来たことをここでご披露いたします。特に資料はございません。

 正直申しまして、私自身も昨年8月に大洋州課に配属になりましたが、それ以前は経済協力の方におり、あまり太平洋とは縁がありませんでした。課長の宮島も7月の終わりに新たにまいりました。役所というのは毎年6月頃から翌年度の予算の概算要求作業を開始するので、昨年の6月とか7月に太平洋島サミットの予算を要求したというのが今回の仕事のはじまりでした。それから4月22日まで指折り数えますと、300日をやや超える日数となり、それが実質的な準備期間でした。7月に概算要求して予算をとり、10月にパラオで開かれたSPF総会にあわせて開催される日・SPF域外国対話に、日本からは東元外務政務次官に行っていただいたのですが、それが太平洋の島国に対して来年の春にサミットをやりたいと打診した最初の機会でした。それから2カ月後の昨年12月、SPFの議長をされているパラオのナカムラ大統領を日本にご招待するというスキームがございまして、それで日本に来ていただいた。その時に小渕総理との間で4月22日に宮崎で開催することを確認し合い、タイムフレームが決まりました。それから作業、準備をすすめ、なんとか4月22日に実現できたわけです。

 私ども素人集団、といっていいのかわかりませんが、昔から太平洋の島のことに詳しい者たちではなかったのですが、いろいろと知恵をしぼり試行錯誤しながら進めてきました。しかし、あとで振り返ってみると「太平洋地域への関心」、「九州沖縄サミットとの関連」、「関係者の知恵」、「パブリシティの確保」と言う4つの理念というかポイントを始終意識しながら仕事をすすめてきたように思います。これらを会議の4つの大きな関心事項として心に留めていたので、出来上がりもこのようになったのかなあという気がしております。

 まず最初の「太平洋地域への関心」ですが、今日ご来場の皆様には釈迦に説法みたいな話ですが、「太平洋地域に対しての内外への関心が最近薄れてきている」ということに気がつきました。戦争を経験されておられる世代の方々は、ずっと関心をお持ちですが、そのあとの世代は基本的には太平洋への関心は薄い。一時米ソが対立していた時期には、太平洋地域で島嶼国が翻弄されかかっていた時期があり、そのときには社会的関心が集まりましたが、冷戦が終わると関心も維持されることなく低下してきました。ところが、よくよく考えると、ここは大変重要な地域です。まさに核燃料の輸送路であったり、漁業資源の宝庫であったり、国際会議なんかでの日本に対するシンパがいる地域として。外務省の外交全体をみると、どうしてもアジア外交、特に北東アジア、中国、韓国、北朝鮮に神経をつかっているけれど、ふと気がつけば、後ろに親日的な形で支えてくれる太平洋の島々がある。これは非常にありがたいことだ、とみんなで議論しました。識者の方々にも相談しました。「どうも最近日本人は太平洋の島国のことを、空気とか水みたいに思っているんじゃないのか」とおっしゃる方がありました。空気や水は普段当たり前に呼吸したり飲んだりしていますが、これは人間の生存にとって絶対に必要なもので、なくなればその瞬間死んでしまう。それほど重要なものですが、日頃はその重要性に気づかない。こんなところが太平洋と重なるような気がするわけです。

 それゆえに、G8という大きな会議を控えて太平洋地域への関心を、国内的にも再認識してもらう必要がある。私たちはこれが押さえておくべきポイントだと確認しました。次に、太平洋の島に対しても、「日本としてあなたたちのことはいつも忘れてはいないし、関心を失ってはいません。」というメッセージを強力に発出する。これが「太平洋地域への関心」という一つの理念です。
 

(九州沖縄サミットとの関連)
 それから2番目。会議を行うに当たって「九州沖縄サミットとの関連」を重要視しようと思いました。時期の関係で言えば、九州沖縄サミットが終わったあとで太平洋島サミットを開催すれば、多分誰も島サミットには関心を払わないのではないかとの心配がありました。ただ新しい年度は4月のあたまから始まるので、その時期国会は予算審議とかで時間をとり、総理に出てもらうのは難しい。そうするとゴールデンウィーク前後の極めて狭い所の日程ではめこめば、なんとかできるかもしれない。結果的にはこれで成功しました。場所についても、当初九州、沖縄というような漠然とした考えだったのですが、官邸とも相談した結果宮崎になり、G8サミットとの関連がある場所で開くことができました。内容についてはあとで申しあげますが、九州沖縄サミットで取り上げられるであろう議題も太平洋島サミットで議論し、内容的な関連づけもできました。
 

関係者の知恵)
 自慢にはならないのですが、太平洋の島に関しては私どもは素人集団だと思っておりましたので、とにかく太平洋の島に詳しい方々にいろいろうかがってお知恵をいただかないと、とんでもない方向に進んでいってしまうのではないかとの不安感が始終ございました。そこで、ここにお集まりのみな様の中にもお知恵を授かった方々がいらっしゃいますし、多くの専門家や関係者の皆様からお知恵をいただいたことが非常に大きな成果を生み出す結果となり、大変ありがたく思っております。
 
 
(パブリシティの確保)
 これはあたりまえのことですが、なにをやっても、それが世間に知られなければ意味がない。そこで、大洋州課員がコネや人的つながりを求めてあちこちに手を伸ばし、各種刊行物や新聞記事に取り上げてもらったりしました。現場のパブリシティという意味で、ラグビーの親善試合のアイディアも出ました。「環境声明」もパブリシティの確保からみても有効ではないかとの考えで入れてみました。以上の4点が、準備の中でわれわれが考慮したポイントです。さらに、ナカムラ大統領が昨年の10月からSPFの議長になられたので、ナカムラ大統領の協力を得るのも非常に重要だろうと思いました。なぜならば、日系人の大統領が南の島にいて、その人と一緒に会議をするというのは日本の国民にとって絵柄としてわかり易い。勿論パブリシティの問題が前面にあったわけではありませんが。もう一つは、ナカムラ大統領は1993年以降、既に数年大統領職にあるので、南の島の首脳たちに対しても、ポット出の首脳よりはより顔が売れているというか、SPF議長としてうまくとりまとめ役にまわっていただけるだろう、という期待も正直言ってありました。その点でも、ナカムラ大統領にも何度か協力を求め、下準備的な打ち合わせをさせてもらいました。

 もう一つ加えると、宮崎県の協力が非常に大きかったと思っております。宮崎県の4月というのは非常に気候の良いときで、お花だらけ、天気も快晴でした。天気は運です。ちょっと余談になりますが、4月の宮崎といえば、私ども誰しもが春うららかな陽光まばゆい南国をイメージしていたので、誰も当日の好天を疑うものはいませんでした。ただちょっと気になったので、念のため過去何年かの4月22日の宮崎の天気を調べました。すると、雨、雨、大雨、曇り、雨、雨とずっと悪い天気が続いていたのです。「えっ!」と思って、まあ小降りの雨であれば会議自体はなんとかできるのですが、一番心配したのは荒天。嵐のような天気になってしまえば、飛行機は飛ばなくなる。飛行機が飛ばなければ東京でやるしかない。そこでかなり泡をくって、念のための保険という意味で東京での会場探しに走りました。結果的には良い天気に恵まれました。宮崎空港から会議場までは車列が走るのですが、道路のわきには色とりどりの花が咲きみだれて、小学生、中学生が手に手にいろいろな島の小旗を振ってくれて、島の首脳たちは非常にハッピーだったと思います。あちこちで歓迎行事があったときも、子供たちがみな一生懸命なので、大統領や首相が子供の手を握って、「ありがとう、ありがとう」といっていました。議題とは関係のないおもてなしの面ですが、自分たちのことを宮崎の人が、日本の人が、こんなに歓迎してくれていると、強く印象づけられて帰っていったのではないでしょうか。宮崎という場所で会議をやったことで思わぬ大歓迎をうけて、それが会議の成功に、首脳たちの満足につながったという点でもよかったと思っております。

 今回はみんなで知恵を出し合ったこと、みんながもてるコネクションを最大限に活用したこと、お金もその手当てに奔走し、なんとか賄えたこと。そして、最後は運。「知恵」と「コネ」と「金」と「運」。この4つに恵まれてなんとか行けたと思っています。これも皆様のお力添えの賜物です。ありがとうございました。  
 
 
3.成果
 
(太平洋フロンティア外交(若者・海・未来))
 内容の話に入ります。「森総理基調演説」という資料がございます。この概要をご説明いたしますと、基調演説の構造、骨組みの1点目は、太平洋の島がグローバル化の大波の中で今洗われているという現状認識。それに対し、日本は共に考え立ち向かっていく立場にいるとのメッセージを発しました。具体的には「若者」「海」「未来」をキーワードとする太平洋フロンティア外交というものを、今後の太平洋諸国に対する日本の外交理念として森総理から表明して頂いたということです。

 「太平洋フロンティア外交」の言葉の意味ですが、これを命名するにあたってフロンティアという言葉が適切なのかどうかについて内部的な検討がありました。要するに辺境の地を開拓するという意味で単純にとらえると、太平洋の島々が辺境の地で、そこを日本が開拓していくというイメージでとらえられるのではないか、この点を私どもは恐れたのです。しかし本当の意味は、「日本と太平洋の島々が協力しあって、目の前に広がっている未来というフロンティアを一緒になって開拓して行きましょう」という意味でネーミングしたわけです。昨今中央アジアの国に対して日本がシルクロード外交という外交理念を表明し、中央アジアの国に対する外交姿勢を強めていますが、それと並ぶような意味合いで今後考えて行きたいと思っています。

 また内輪話になりますが、やはりこれも外務省の中で知恵を出しあい、いろいろなアイディアが出ました。「新太平洋外交」、「オーシャン外交」というような名前が出ました。私自身は「アウトリガー外交」が良いのではないかと一生懸命頑張ったのですが。アウトリガーはご案内の通り双胴のカヌーで、多分太古の昔から太平洋の島々はアウトリガーのカヌーで交易をしたり人的交流をしていたという歴史があります。かつまた、今後未来という荒波に向かって、アウトリガーを構成する太平洋の島々と日本という二つの船がお互いに結び付き、協力し合って、船の転覆をまぬがれながら荒海を乗り切っていくというイメージですから、アウトリガーが良いのではないかとかなり頑張ったのですが、やはり「一般国民受けしない」という一言で却下されました。同じような意味合いを「太平洋フロンティア外交」は持っていると私どもは考えています。一緒に手に手を携えて、海とか未来を切り開いて行こうという思いです。


持続可能な開発に対する協力)
 次が三つの議題。会議の柱になっている部分です。一つ目の柱は、「太平洋島嶼国の持続可能な開発」で、どちらかというと経済協力、開発協力関連の今後の日本の外交政策をここにまとめ込んだものです。


地域及び地球規模の共通の課題)
 太平洋フロンティア外交の第二の柱として、「地域及び地球規模の共通の課題」として、気候変動の問題、海洋資源、漁業資源の問題。さらには感染症、薬物、国際組織犯罪等々太平洋の島々を脅かしている、生活を脅かしているようなものに対する対処、これらについて日本としては太平洋の島に対して協力しますという方針をこの中にまとめました。


日本とSPF諸国の間のパートナーシップの強化)
 第三の柱として「日本とSPF諸国の間のパートナーシップの強化」です。まさに人と人とのつながり、心と心の触れ合いをもっと深めましょう、そのために太平洋諸島センターであるとかいろいろなレベルでの往来をより活発化していきましょうという内容です。これが会議の冒頭、森総理から表明していただいた基調演説の骨子ということになります。


(宮崎イニシャティブ)
 次に「太平洋フロンティア外交・宮崎イニシアティブ」についてお話いたします。
 これが具体的に日本が打ち出した方針です。冒頭に書いてある通り、太平洋フロンティア外交の具体例としてとりまとめられた広域的、多面的側面を持つ日本側のイニシアティブです。今回のサミットでは、二国間協力の話はいたしませんでした。当然のことながら、例えばある国の首脳がうちの漁港を整備してくれというような二国間協力の話が全体の場で出ると、他の人の関心事項ではなくなってしまう。またある意味で具体的な願いを受ける場でもないと私どもは認識しておりましたので、そういうことは別の機会にしていただき、特定の国の特定の分野にのみ効果が及ぶものではなく、なるべく広い分野、太平洋の島国の中でも広い地域、より多くの国々に裨益するような貢献策をまとめたものがこれです。
 
(1)(持続可能な開発に対する協力)
 宮崎イニシャティブの3つの柱の1つとして最初に掲げたのは、「持続可能な開発に対する協力」で、まずは「開発のための人造り」です。国造りは人造りであるとの考えから、国際協力事業団(JICA)にお願いして研修員とか青年招聘といった形で日本なり他の所に来ていただき、研修を積んでいただく、さらには日本から専門家や青年海外協力隊といった形で太平洋の島の方に派遣して、島の人たちを育てていくといった人的交流の人数を今後5年間で3000人以上とするという内容です。

 次に「教育機会の提供」です。4月の1日2日にG8教育大臣会合がありました。世界全体を対象としたものですが、今後10年間で学生、教員、研究者、行政官との交流規模を2倍にするとの方針が打ち出されております。当然のことながら太平洋島嶼国との交流も教育大臣会合の意図を得て、拡大していくとの意味です。

 「働く女性の支援」。国連開発計画(UNDP)にWID基金というわが国が資金拠出しているものがあります。その基金から太平洋の島の女性は働き者が多いので、たとえばマイクロクレジットの原資に使っていただくとか、そういった形で女性支援のための活用を積極的に考えるというのがこの部分です。

 「太平洋IT推進プロジェクトの実施」。これは九州・沖縄サミットにもつながる部分だろうと思います。これも国連開発計画(UNDP)に拠出されているお金から100万ドルではありますが、まずデジタルデヴァイド(情報格差)により、とり残される怖れのある太平洋の島々に対し、ITを推進するために、まずは島のリーダーたちにITに対する理解を深めていただいて、できることならば国家IT開発戦略みたいな国家理念も作っていただき、その上で必要なハードウェア、ソフトウェア構築を支援する。その際にITを活用した遠隔教育、遠隔医療、マングローブ保全といったようなものも、実際ITを推進することによってその効果が目に見えて表われてくるという、実証できるようなプロジェクトもあわせてくっつけていけたらと思います。

 「産業振興」。これはJETROに出していただいた知恵です。島ごとに基幹産業となる部分があるので、そういった所に日本から人を派遣して産業診断ですとか指導をしてもらう、あるいはワークショップ、産業振興にかかわるシンポジウムをやるといったことです。

 「経済改革努力への支援」。これまでも構造調整とか貧困削減努力をやっている途上国に対しては、無償資金協力で各種支援をしてきたのですが、ふと対象を太平洋の島国にあてると、これまで持っていたスキームですと太平洋の島の人口、経済規模があまりにも小さいので、ちょっと使いづらい、適用しづらいスキームでした。それを今回太平洋島サミットを契機に、そういった太平洋の島のようなスケールの国でも適用を拡大できるような方途を、今後探っていくという意味です。

 「健全な経済制度の整備」。これはSPF諸国の税制、経済財政政策について、OECD等のいろいろなコンサルティンググループがありますが、国際機関とわが国が話す機会、あるいは国際的に話す機会の中で、太平洋の島のことも積極的に取り上げて支援していくということです。


(2)地域及び地球規模の共通の課題
 
(i)環境問題への多面的な取り組み
 「海洋気象観測の実施」。これは日本でも気象庁、運輸省、科学技術庁など、いろいろな所が地球規模の気候変動メカニズムを調べています。太平洋の海洋観測、気象観測は気候変動を見る上で非常に重要な情報を得られる場所だそうですが、それらの調査をさらに実施していくことで、環境問題への対処方法を根本的な所から考えていきます。

 「珊瑚礁保全」。パラオに日本の無償資金協力で作っている珊瑚礁センターがありますが、ここを将来的には珊瑚礁保全の拠点、コアとして各種研修をしたり、ワークショップをしたりという事業を視野に入れながら活用していきますと書いてあります。

 「廃棄物対策」。これは、サモアに南太平洋地域環境計画(SPREP)がありますが、そこに無償資金協力で研修センターをいま造っております。その研修センターを活用して島嶼国の廃棄物対策を考えていきます。あわせて沖縄県も離島という観点から、閉ざされた自分の島の中で廃棄物をなんとかしなければいけないという同じ環境にございますので、沖縄での工夫をそういう研修のなかで活かしていくと書いてあります。


 「新・再生可能エネルギーの導入」。風力、太陽光あるいは海水の温度差、地熱等のエネルギー・ソースがありますが、それらの利用可能性をさぐるための調査、導入試験等を積極的にすすめる。通産省とも一緒にやる形に
なっています。 

 「水産資源の有効利用」。南太平洋大学に海洋研究施設を造っていますが、ここで特に漁業資源、養殖を含めた技術開発と人造りをすすめたいということ。さらに沖縄にJICAの国際センターがありますが、ここでも同じような水産養殖の研修などをやっていくということです。

 「海洋資源調査の実施」。JICA、金属鉱業事業団が南太平洋応用地球科学委員会(SOPAC)の要請を受け、海洋資源コバルト、マンガンの埋蔵調査をする。またそれらを採掘した場合に生ずる環境への影響アセスメントなども含めて実施していくと書いてあります。
 
 
(ii)文化の分野における取り組み
 「文化遺産の保存」。「地域及び地球環境の規模の共通の課題」の中には、文化の分野における取り組みも含まれており、南太平洋の文化遺産はこのまま放っておくと近い将来なくなってしまう。文字で残されていない文化は、世代交代が行われるにつれてなくなるという危機感もあり、ユネスコの基金を活用して、手始めのプロジェクトとしてはメラネシアの言語保存を始めようとしていますが、これに限らず文化遺産の保存を積極的に行いたいと表明いたしました。

 「著作権制度の充実」。島嶼国における著作権とは、島嶼国におけるコピーライトとか著作権が侵害されるという部分と、島嶼国自身がもう少し著作権のことをよく勉強してもらう必要があるという両面です。著作権関係にもっと詳しくなってもらう必要があるので各種セミナー等を考えています。

 「人間の安全保障」。難民支援ですとかリプロダクティブヘルスと性と生殖に関する権利、エイズ、再興感染症としても結核患者が太平洋の島にも出てきていると聞いております。こういったものに関して、UNDP等が実施する国際プロジェクトに、日本として200万ドル出しますということです。

 「人々の健康をまもる」。オーストラリア国際援助庁とJICAが一緒に実施しようとしているのですが、太平洋島嶼国を対象とするワークショップをドナー協調のもとにやろうということです。
 

(3)日本とSPF著国の間のパートナーシップの強化
 
(i)「知的対話の促進」
 SPF諸国の文化財の保存、有形無形の知的財産の保存や日本語普及・日本語研究、これらを知的ネットワークの構築という形で今後推進していけないかと考えています。そのためのツールとして「太平洋知的対話ミッション(仮称)」を派遣する。これは文化的な素養を持つ専門家のみならず、経済協力の専門家の方にも入っていただく。たとえばJICAのJOCVは日本語の教師をいっぱい派遣しているし、文化財の保存にも技術協力の入り込む余地があるので、外務省の組織でいえば文化交流部と経済協力局が一緒になったようなものを考えております。さらに沖縄との連携では、琉球大学に限りませんが一緒にネットワークを作れないかと考えています。
 

 (ii)地域機関への支援
 「南太平洋フォーラムへの支援」。SPF事務局に対して今年3月、100万ドルを通常ベースに上乗せして拠出しています。

 「太平洋諸島センターへの支援」。機能強化のための3000万円、各種情報発進のための経費として300万円。太平洋諸島センターによりいっそう積極的に活動してもらうよう、お願いしております。
 「PICHTRへの支援」。ハワイに太平洋ハイテクセンター(PICHTR)があり、ここにも日本が資金的、人的な支援をしています。これも引き続き支援していきます。
 
 

4.今後の展望
 
 以上の「宮崎イニシャティブ」が今後私どもとして、みなさんのご協力をいただき、お知恵も拝借しながら進めていかなければいけない、太平洋・島サミットで表明した一覧表です。森総理からも「2〜3年に1回、定期的にやりましょう」という話になっておりますので、多分今年度中にフォローアップ会合かシンポジウムという形で集まりをもとうと思っています。

 再来年になるのか再々来年になるのか分かりませんが、次回の太平洋島サミットのため準備会合を開くことも考える必要があるだろうと思います。また毎年ご案内の通り、10月、11月くらいにはSPF総会があり、日本からも人を派遣します。これがとりあえず見通せる外交日程です。さらに外交日程ということでつけ加えれば、今年はフィジー独立30周年、トンガ独立30周年、パプアニューギニア独立25周年、ヴァヌアツの20周年、さらに島嶼国ではないのですがシドニーオリンピックもあり、「要人の往来」の機会も非常に多いと思います。したがって、いろいろなシンポジウム、準備会合に加えて要人の往来というのもより積極的に精力的にやっていこうと思っています。そういう場で進捗状況を報告していくのが、今ご覧いただいたイニシアティブでありまして、言った以上はきちんと評価されることをやらねばならないと考えております。ここまで来られたことに関しては、本当に皆様方のご協力のお陰と感謝いたします。しかし、ふと考えますとまだ道半ばというか、約束手形を切ったところまでで、今後きちんとそれを落としていかなければならない、むしろそちらの方により多くの時間とエネルギーを費やさなければいけないのかなと思います。引き続きご支援、ご助言、ご指導いただきたくお願い申し上げます。