PACIFIC WAY

       巻頭言・新たな自由連合関係の合意

   小林 泉 (こばやし いずみ)


 自由連合協定に基づくミクロネシア連邦(FSM)並びにマーシャル諸島共和国(RMI)への財政支援は、2001年9月に終了した。そのため、新たな対米協定交渉の動向が注目されていたが、それも11月初旬にようやく最終決着に至った。まだ米国議会による承認手続きが残されているが、提出原案どおり議会通過すれば、2004年度から新たな財政支援協定に基づいた援助が開始される。援助終了から新協定スタートまで2年間の空白があるが、この間は交渉猶予期間として、過去15年間にわたる援助の年間平均相当額が拠出されることになっている。

 本来、自由連合協定には期限がない。「どちらかの申し出により自由に関係を解消できる」のが自由連合の名称由来であって、そのままにしておけば永久に続く関係でもある。「15年で期限切れ」とよく言われたのは、協定で決めた財政支援の期限を指したものだ。ゆえに、米ミ間の協定交渉は、協定存続を前提にして、新たな財政援助をどうするかという問題に主たる議論が集中したようである。米ミの思惑は、必ずしも一致していたわけではない。しかし結果的には、ミクロネシア側が米国から引き出した援助条件は、彼らにとって大成功と言っていい内容であった。

 それでは、このたび合意に至った新たな財政支援の内容を概観してみよう。新合意では、財政支援期間を20年間とした。その後の延長はないものの、毎年拠出金の一部を積み立てて信託基金を創設する。2025年以降は、この基金の運用益を政府財源に組み込んで政府維持を図るというものである。FSMへの拠出は毎年9,100万ドル、20年間の援助総額は18億2,000万ドルになる。RMIへは毎年3,200万ドル、その他に米軍基地のあるクワジェリン環礁の使用補償や土地リース代等が別に拠出されるので、20年間の拠出総額は9億6,000万ドルになり、人口一人あたりにするとRMIが受領する総額はFSMと同額か若干多くなる。また、RMIのクワジェリン環礁のリース期限2016年が2053年までに延長された。

 積み立て金は、20年後にはFSMが5億7,000万ドル、RMIが2億5,500万ドルとなるが、基金完成までの運用益や自己拠出金を加えて、最低でもそれぞれ10億ドル、5億ドル程度の信託基金の創設が目標とされた。また、米国の拠出金には、前協定と同様にインフレ調整が約束されたので、目減りしない。さらにその間、第三国や国際機関から基金への援助が得られるように働きかけたいとしているから、これで将来的にはかなり安定した財源の確保が予測できる。

 極小国家が財政自立を果たすもっとも現実的方法は、信託基金の設立である。私は常々、そのように訴えてきた。FSMやRMIの国内経済事情を理解する者であるならば、容易に共感できるだろう。実際に、両国は15年間で国家財政の自立体制を確立させるという国家建設の目標を掲げて独立したが、その期間が過ぎた現在も、経済の基本構造は少しも変化していないからである。つまり、独立時点の公的資金への依存体質が、そのまま残っているのだ。これは、15年間で政府財源に結びつく国内産業が育たなかったことを意味している。

 しかし、こうした状況が経済政策の失敗、あるいはミクロネシア人の努力・能力の不足に起因したものだと思うのは正しくない。なぜなら、土地が狭く、人口密集地から遠く、資源にも乏しいという不利条件を背負いながら、しかも15年で政府維持を可能にするだけの国内産業を興すのは、誰がやっても難しいと思われるからだ。それでも無理矢理に、しかも短期間でやろうとすれば、島々に残っていた良き伝統社会や自然環境はすぐさま崩壊するだろう。古き伝統や既存の富が消滅しても、新たな富みが出現するのであればまだ良いが、富が生まれずに従来あるものさえ壊れてしまえば、残るのは荒廃した社会だけではないか。

 そのように考えれば、経済の基本構造を変えずに、米国からさらなる援助確約を取り付けたのは、むしろ上出来だったと言っていいだろう。幸いにも、FSMとRMIが試みた国内開発行為は取り返しのつかない段階には至っていない。それだけに、信託基金の創設を含んだこの財政援助の取り決めは、極めて意味深い内容であったと私は評価している。これにより両国は、島々の実情にあった方法を模索しながら、焦らずにゆっくりと国家建設を進めることができるからである。

 FSMやRMIに出現する信託基金方式は、既に成功裡に機能しているツヴァルの事例とともに、極小国家の政府維持システムとして、今後とも注目すべきモデルになると私は思っている。