PACIFIC WAY

      <パラオ短信>
        民間経済活性化目指す新政権

コンパクトによる経済援助は1年延長

                              上原伸一(うえはら しんいち)



 昨年11月4日の本選挙で選出されたジャンセン・トリビヨン氏は、憲法の規定に従い1月15日にパラオ共和国第8代大統領(選出大統領としては第6代)に就任した。

  前号既報の通り、昨年の総選挙では、2004年の憲法改正により国会議員の任期制限(上下両院併せて3期まで)が定められていたため、上下両院とも前職で当選したのはそれぞれ3名のみで、議会メンバーは大幅に入れ替わった。今迄は、伝統的に上院と大統領とは対立的な関係にあり、大臣は上院の承認が必要なため、組閣が完了するのに相当な日数がかかることも稀ではなかった。今回は、最初に大統領が指名した大臣の内、スコット・ヤノ氏が上院の承認を得られず、また、ヨルサウ・ベル氏が承認手続きの最中に学歴詐称の疑いが出て来たため指名撤回となったが、2月20日には全閣僚が決まった。前大統領トーマス・レメンゲソウJr.氏は、彼の閣僚の多くと共に国会議員に立候補したが、結局上院に当選したのはレメンゲソウJr.氏一人、下院もアレキサンダー・メレップ氏一人で、いずれも多数野党を形成することは出来なかった。結果として、ジャンセン新大統領は、国会との関係においては、歴代の大統領に比べかなりスムーズな対応が可能となっている。

  民間経済の活性化による経済自立は、前々からのジャンセン大統領の主張であるが、昨年来の世界不況の影響を受け、パラオ経済も低迷している。パラオ最大の産業である観光において、観光客が、今年前半6ヵ月間は、すべての月において前年同月比を下回り、半年累計で前年比マイナス11.38%という状態であり、歳出に対し税収不足が明確になってきている。この状況に対し、大統領は、増税は考えず、国内消費を冷え込ませず、経済の活性化を目指す方針を堅持している。歳入不足に対しては、今後、公務員の数を減らし、小さな政府を実現して、歳出を減らすことで対応するとしている。

  今年9月30日を持って、コンパクト(アメリカとの自由連合協定)に基づくアメリカからの経済援助が切れるため、この延長が昨年来パラオにとって大きな問題となっていた。当初は、先行するマーシャル諸島共和国やFSMで援助期間の延長が行われていることから、比較的簡単に交渉が進むかと思われていた。しかし、米パ両国の大統領選挙やサブプライムローンに端を発した不景気の影響で、交渉は停滞していた。3月中旬に、ジャンセン大統領は米国を訪問し、クリントン国務長官や民主党、共和党の上下両院議員に直接要望をぶつけ、1年間の暫定延長を取り付けた。1年間で、コンパクトの再評価を行い、本格的な延長交渉に臨むことになる。

  コンパクトによる経済援助が延長されても、歳入不足は補えない。民間経済活性化のために、大統領は、パラオ最北端のベラスコリーフでの石油資源調査やカジノの認可、外国からの投資増を狙った法案などを議会側に提示している。オーストラリアからの直行便乗り入れの話もある。これらの経済政策が、どの程度実現し、経済効果をどこまで上げるか、新政権の評価がこれから問われる。しかし、ベラスコリーフ周辺の石油資源調査は、環境保護に力を入れていたレメンゲソウ前大統領により阻止された経緯がある。ジャンセン大統領も、観光資源こそパラオ最大の経済資源であるとして環境保全の必要性は認めているものの、経済開発と環境保護のバランスをどのようにとっていくか、議会側の反応も含め、難しいかじ取りが要求される。
 
<新政権閣僚>
・財務大臣    ケライ・マリウル(副大統領兼任)
・法務大臣    ジョニー・ギボンズ(前コロール州知事)
・経済産業大臣 ジャクソン・ギライガス(ペリリュー州知事、大臣就任に伴い州知事を辞任)
・教育大臣    マサアキ・エミシオール
・国務大臣    サンドラ・ピエラントッチ(元副大統領)
・厚生大臣    スティーブンソン・クワルティ
・資源・環境・観光大臣 ハリー・フリッツ(前上院議員)
・地域・文化大臣 フォスティナ・ルーハウ(前国立博物館長) 
                                                 以上
 
 

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