PACIFIC WAY
トンガ王国憲法改正(2010年)の要点
−国王・内閣・国会−
                  
                       苫小牧駒澤大学 東 裕 (ひがし ゆたか)

 2010年にトンガ王国憲法が大幅に改正された。この改正は、これまでのトンガ王国の政治の仕組みを根本から変える「革命的」な改革であり、1990年代に始まった「民主化」運動の帰着点であった。改革の焦点は、国王権力の制限、国会における人民代表議席の拡大、国会の権能の強化と内閣の民主化、といった点にあった。それが具体的に憲法条項の中でどのように実現されたかを、主要な条項を取り上げて報告する。トンガでは、憲法の改正は国会制定法で既存の憲法条項を削除し、修正し、付加する方式で行われる。今回の改正は、それが以下の3つの法律によって行われた。
 ・Act of Constitution of Tonga (Amendment) Act 2010, Act No.14 of 2010
(2010年4月20日国会可決、5月6日女王裁可)
 ・Act of Constitution of Tonga (Amendment)(No.2)Act 2010, Act No.20 of 2010
(2010年7月20日国会可決、裁可日記載なし)
 ・Act of Constitution of Tonga (Amendment)(No.3)Act 2010, Act No.39 of 2010
(2010年9月20日国会可決、9月24日国王裁可)
 以上の、3つの憲法改正法は、トンガの“Crown Law”のウエブサイトで閲覧できるが、これら憲法改正法による改正を反映し一体となったトンガ王国憲法は現時点では未見である。また、今回の改正に至る経緯については、本誌通巻135号(2010年2月)掲載の拙稿「トンガ王国の民主化と憲法改正−『憲法・選挙委員会:最終報告』」をご参照いただきたい。
 
1.政府形態
 「王国の政府形態(the form of Government)は、ジョージ・ツポウX世とその継承者のもとでの立憲君主制(Constitutional Monarchy)である」(30条)と定められ、これまで同様の立憲君主政体である。すなわち、立憲政府(Constitutional Government)から立憲君主制へと用語の変更があったが、政体の変更はなく、立憲君主制の枠組みを維持しながら国王の権能が大幅に制限されたのである。
 
2.枢密院
 枢密院について定めた第50条が削除され、代わりに次の条項が置かれる。旧条項では枢密院は国王の重要な権能を代行し、国王を支える(assist)機関であった。高度の司法機能と立法機能を備え、その構成には閣僚も含まれていた。一方、改正憲法では、それらの権能は削除され、構成も変化し、国王の助言機関となった。
 
 第50条[憲法と枢密院の権能]
  (1)国王は、自らに助言(advice)を与える枢密院(Privy Council)を組織する。枢密院は、国王が適任と判断する者によって構成される。

(2)土地および称号の継承の決定に関し土地裁判所(Land Court)で審理されるいかなる争訟も、その当事者の一方が争訟の手続きを決定し、枢密院における国王の判断が終局となる。枢密院の国王に訴え出ることは合法である。
(3)枢密院は、枢密院令(Order)によって自ら内部手続きを定める。
 
3.首相の選任・失職・職務
 新たに“首相(The Prime Minister)”の表題が挿入され、第50A条と第50B条が置かれる。第50A条では、「国王は、この憲法の別表(Schedule)、または第50B条に定める手続きに従って、国会が指名する選挙選出議員(the elected representatives)の中から首相を任命する」(1項)と定める。すなわち、首相の選任は改正前には国王の大権事項(King's Prerogative)であったが、改正により、首相は、国会議員のうち人民代表または貴族代表の選挙選出議員の中から、国会の指名する議員を国王が任命することになった。

  首相は、(a)この憲法に従って、新たな首相が任命されたとき、(b)第50B条によって不信任されたとき、(c)死亡、辞任、または国会解散以外の理由により選挙選出議員の地位を失ったとき、(d)この憲法または法律の定めるところにより首相となる資格を失ったとき、辞職する(同条2項)。また、「首相は、政府内での出来事および国の状態について、定期的に国王に報告しなければならない」(同条3項)として、首相には国王への国政情報の提供が義務づけられた。
 
4.首相不信任決議
 首相不信任決議に関する条項(第50B条)が新設された。すなわち、国会で「首相不信任決議」(Vote of no confidence in the Prime Minister)が可決されたとき、議長がその決議を国王に上奏し、首相と全閣僚は総辞職しなければならない(同条1項)。 首相不信任決議にあたっては、「国会開会中に決議の5日以前に決議案を提出することを議長に通告しなければならない」(同条同項(a)号)。但し、「総選挙後の18ヶ月以内、第77条(1)によって実施される選挙前6ヵ月以内、または不信任決議の採決があった後の12ヵ月以内は、不信任決議は無効」(同条同項(b)号)である。

  不信任決議案が可決され、首相および全閣僚がその職を失ったときは、「48時間以内に国会は選挙選出議員の中から、新たに選出された首相候補者を国会議長を通じて国王に推挙し、国王はその者を首相に任命する」(同条第3項)。

  もし、首相不信任決議案が可決された後に新たな首相候補推薦者が決まらない場合、国王は、(a)国会を解散し、90日以内に総選挙を行うことを命じ、その後、(b)国王が暫定内閣を率いるのに最もふさわしいと考える選挙選出議員を、次の総選挙後に新たに首相が選出されるまで、暫定首相に任命し、(c)総選挙後に新たな閣僚が任命されるまで、国王は、暫定首相との協議に基づき、暫定閣僚を任命する(同条4項)。

  こうして、例外状況に限り、国王に暫定首相および暫定閣僚の任命権が認められた。
 
5.内閣の構成・権能・失職

  これまでの憲法第51条は削除され、内閣の権能等を定めた新たな第51条と差し替えられる。新第51条では、「王国の行政権は内閣に与えられ、内閣は行政権の行使について国会に対し、連帯して責任を負う」(1項)として、行政権が国王ではなく内閣に帰属することが明示され、行政権の行使に関する内閣の責任は、国王に対する責任ではなく、国会に対する連帯責任であることも明示された。

  内閣の構成について、「内閣は、首相および首相が指名し国王が任命するその他の閣僚で組織される」(同条2項)。但し、「首相は、4人を超えない範囲で、選挙選出議員ではない閣僚を指名することができる」(同条同項(a))として、国会議員以外からも閣僚を選任することが認められている。さらに、「首相と閣僚は、議長を除く国会の選挙選出議員の半数より少ない人数でなければならない」(同条同項(b))として、内閣の構成員が国会で多数を占めることがないよう配慮されている。

  大臣が失職する場合は、「第50B条の定めるところにより、首相の助言に従い国王が解任したとき」(同条3項(a))、「死亡、辞任、または第75条の定める弾劾により解任されたとき」(同条3項(b))、「憲法または法律の定めるところによりその職にとどまる資格を失ったとき」(同条3項(c))である。但し、「総選挙後、および第50B条(4)(c)により任命されたとき、閣僚は解任されるまで、または新たに任命された首相の助言により再任されるまでその職にとどまり、その間、選挙管理閣僚は、選挙管理財務大臣の文書による同意なしに通常の支出または不必要な支出をしてはならない」(同条同項但し書き)。

  各大臣の所管する省については、「首相は、その内閣の閣僚の所管する省を決定し、変更することができ」(同条4項)、「各大臣は、その所管する省の活動および計画を国会に通知するために年次報告を作成しなければならず、国会が各省に関し、知りたいと希望するあらゆる事項について、各省大臣はすべての質問に回答し、所管する省に関するすべての事項を報告しなければならない」(同条5項)。また、「選挙選出議員でない大臣は、国会に出席し採決権を有し、法律に定めのある事項を除き、選挙選出議員と同様のすべての権利、義務、および責任を有する」(同条6項)が、第50B条の首相不信任決議については投票権を有しない(同条同項但し書き)。

  最後に行政権に関する定義規定が置かれ、「本条(1)項の“行政権”(executive authority)は、この憲法または国会の制定する法律もしくは下位法および国王大権によって国王および枢密院における国王に与えられたすべての権能を除く」(同条7項)と定められている。

6.国会の構成 
 国会の構成について、これまでの第59条、第60条、および第61条が削除され、それぞれ次の各条項に置き換えられた。
 
 第59条[国会の構成]
  (1)国会(The Legislative Assembly)は、次の議員によって構成される。
     (a)貴族代表議員(the representatives of the nobles)
     (b)人民代表議員(the representatives of the people)
     (c)全閣僚(all members of the Cabinet)議員
  (2)選挙選出議員である閣僚(Cabinet Ministers)は、第75条の弾劾により辞職する場合を除き、大臣の職にある間、国会議員であり、それぞれの選挙区の代表の地位を保持する。
 第60条[代表] トンガ王国の貴族のうちから、9名の貴族が貴族代表議員として、貴族によって選出されなければならず、そして正当な資格を有する選挙人によって17名の人民代表議員が選出されなければならない。国会は貴族代表議員選挙のため選挙区画を設定し、かつ人民代表議員選挙のための選挙区画を設定するため独立の委員会(Commission)を設置しなければならない。
    但し、2010年の総選挙のための選挙区画は、国会によって承認された王立選挙区画委員会(Royal Constituency Boundaries Commission)の勧告に基づかなければならない。
 第61条[国会の議長]
(1)国王は、総選挙の後に第50A条により首相を任命した後、5日以内に国会の推薦に基づき、選挙された貴族代表議員のうちの1名を国会議長に任命する。
(2)議長は、次の場合に辞職する。
(a)この憲法の別表第8項により、次の総選挙後の暫定議長を国王が任命したとき。
(b)本条第3項により解職されたとき。
(c)死亡、辞任、または国会の解散以外の理由により、選挙選出貴族代表議員の地位にとどまることが出来ず解職されたとき。
(3)国会の半数以上の賛成により、首相が国王に対し議長の解職を助言したとき、国王は議長の職を解き、国会の推薦により新議長を任命する。
(4)議長の職が空席となったとき、国王は7日以内に議長を任命する。
 
7.選挙人および被選挙人の資格 
 選挙人の資格について、納税や読み書き能力を要件としていた旧第64条が削除され、次の条項に置き換えられた。ここでは、一定の条件のもとで、在外トンガ人の投票が認められた。
 
 第64条[選挙人の資格] 貴族でない21歳以上のすべてのトンガ臣民(Tongan subject)は、(第23条の欠格条項に該当する場合を除き)、選挙人として登録されることを条件に、国会の人民代表議員選挙の投票資格があり、投票日には負債のための召喚を免除される。選挙人資格を有する国外在住トンガ人は、選挙人として登録され、かつ投票日にトンガに在住する場合に限り、選挙で投票できる。
 
 次に、被選挙人の資格については、旧第65条が削除され、新条項に置き換えられた。新第65条では、原則として「人民代表議員は、投票で選出され、選挙人となる資格を有する者は候補者になることができ、その者が登録された選挙区の代表として選出される資格を有する」。但し、「選挙人となり得る資格を有する国外に居住するトンガ人は、選挙期日以前の6ヶ月間のうち3ヶ月間トンガに在住する者に限り候補者資格を有する」と定められ、一定の条件の下に在外トンガ人の立候補が認められた。
 
8.総選挙
 これまでの憲法第77条が削除され、次の条項で置き換えられた。3年ごとであった総選挙が4年ごとになり、国会議員の任期が1年延長された。但し、国王の解散権については旧条項と同様で、国王が自由に解散権を行使できる。
 
 第77条[総選挙]
  (1)貴族代表議員および人民代表議員の総選挙は4年ごとに行われ、任期満了前の解散の場合を除き、前回の総選挙から4年の任期終了時に解散する。
  (2)国王は、自らの判断により、いつでも国会を解散し、新たな選挙を行うことが出来る。
  (3)国王により、または本条1項により国会が解散されたとき、国王は、国会議長と協議した後、総選挙の期日を定める。
 
結語
 国王と国会および内閣に関する主要な改正条項について、簡単に紹介した。もとより改正条項についての網羅的な報告ではないため、多々遺漏もあろうが、改正トンガ王国憲法の基本的枠組みは示し得たのではないかと思う。いずれ稿をあらためて、改正トンガ王国憲法について包括的な分析と考察を試みたい。
                                         以 上
 

 

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