研究員の論文
ガラセ暫定政権の政策と課題

苫小牧駒沢大学助教授 東裕(ひがし ゆたか)
出所:「South Pacific」(南太平洋シリーズNo.239) (社)日本・南太平洋経済交流協会(2001年3月号)、pp.1-9
はじめに
2000年5月19日に発生したフィジーのいわゆるクーデタ事件は発生から2ヶ月弱の7月13日に国会に監禁された人質全員の解放をもって一応の決着を見たが、初のインド系首相となったチョードリー首相が非常事態宣言下で解任され、国防軍による全権掌握と1997年憲法の破棄を経て暫定文民政権へ移行するという政治変動をもたらした。ガラセ暫定政権は、フィジー原住民の利益を十分に保障する新たな憲法を制定して選挙を実施し、立憲民主制へ復帰することを目標に掲げて政権運営にあたることになった。そんな中、11月16日にラウトカの高等裁判所において、1997年憲法の破棄は違憲であり同憲法は依然として効力を有し、大統領・上院議員・下院議員の職も5月19日以前のままであるとの判断が示され、暫定政権の正統性に疑問が投げかけられた。政府はこの判決を不服として控訴裁判所に上告し、まもなくその判決が出る見込みである。このように、依然として波乱含みのフィジー政治情勢の中でのガラセ暫定政権の政策と課題について紹介したい。
1.ガラセ政権の新憲法構想
暫定政権発足から9日後の2000年7月13日、ガラセ首相は大酋長会議(Great Council of Chiefs)に、『フィジアン及びロトゥマンの権利及び利益の保護と両民族の発展の推進に向けての青写真(以下、ブループリント)』を提出した。これは主として今後2年間で実施予定の暫定政権の方針を明らかにしたもので、その中で原住民の権利と利益の保護のための方策が提案され、その必要性の背景が次のように説明されている。

(1)原住民のフィジアンとロトゥマンはフィジー諸島の人口の51%以上を占める。しかもその数は全国民人口増加率年率0.8%に対し、その2.25倍にあたる年率1.8%の高率で上昇を続けている。(1996年の国勢調査)

(2)両民族はフィジーにおける主要な土地所有者であり、伝統的所有権に基づく所有地は国土の83%に及び、そのほかに伝統的漁業権も有している。

こうした理由により、フィジアンとロトゥマンに影響を及ぼすことがらは何であれ、全国民に影響を及ぼすことは間違いなく、両民族の利益の至高性と生活のすべての局面での公平な参加を確保することが、フィジーの長期にわたる平和と安定と持続的な発展の前提条件になる、とされる。この目的達成を容易にする環境を提供しようとするのが『ブループリント』であり、その環境とは、原住民フィジアンとロトゥマンが、フィジー諸島共和国という単一国家の中で自らの自決権を十分に行使できるようにすることである。多民族・多文化社会フィジーにおいてフィジアンとロトゥマンの利益の至高性を保護し、そしてその発展と参加の機会を拡大し、快適さとサービスを改善することが必要となるのである。

こうして、人口の過半数を占める原住民の土地所有権・漁業権の保護と生活の諸側面における参加の機会の確保が、フィジーの発展にとって不可欠の前提条件であるという立場が前面に押し出され、いくつかの具体的な提言がなされている。そのなかで第一に挙げられているのは新しい憲法の制定である。新憲法は1997年憲法の改正憲法ではない新たに制定される新憲法であることが強調され、次の事項を規定することが主張されている。

1.大統領と首相については人種要件が付されること。

2.大酋長会議の意見に添ってフィジアンとロトゥマンの重要問題について憲法上の配慮がなされることを基本方針とすること。

3.大酋長会議の権力強化。

4.新憲法条項に基づいたフィジアンとロトゥマンのための積極的格差是正措置(affirmative action)に関する法律の制定。

このような新憲法の基本方針は、文民クーデタを実行したスペイトらの主張とも合致したものであり、それは多くのフィジアンの願望をも表現したものでもある。しかし、これは「人種差別憲法」として国際的な非難を受けてきた1990年憲法への回帰か、あるいはそれ以上の「反動」的な憲法を意味するものであることは間違いない。

また、新憲法の必要性が説かれる一方で、廃止された1997年憲法の欠陥が強調される。昨年9月4日に『なぜ1997年憲法が改正されなければならないか、そしてなぜ新憲法が必要か』という政府見解が発表され、1997年憲法の最大の欠陥が選挙制度であり、それが1999年5月の選挙で明らかになったと指摘された。すなわち小選挙区選択投票制の欠陥であり、それは次の4点に集約される。

(1)この選挙制度(=小選挙区選択投票制)は個人よりもむしろ政党を選択し議席を割り当てることを許すもので、そのことが選挙人の候補者選択の権利を侵害したこと。

(2)得票率と獲得議席数の不一致で、第1順位の選択では全有権者の約32%の得票にすぎない労働党(FLP)が、票が移譲された結果、単独過半数の37議席を獲得したこと。

(3)選挙区画の問題で、当選者が小選挙区で選出されるため、民族別議席(46議席)の選挙区画と全国民議席(25議席)の選挙区画がズレたため、インド人の議員は選挙区のインド人に、フィジアンは選挙区のフィジアンのために集中して奉仕する傾向が見られ、議員同士が選挙区のすべての人々のために複合人種集団として協働できなかったこと。

(4)フィジアンの小党分立化とインド系の人種的まとまりによる労働党への集中的な支持という民族ごとの投票行動の違いが小選挙区制を基本とする選挙制度の下で増幅され、労働党の圧勝を生んだこと。
以上、1997年憲法の欠陥が提示されることで新たな選挙制度を定めた新憲法の必要が示唆されるのである。
また、1997年憲法の規定に従って国民統合のための複数政党内閣が構成されたが、フィジアンが議会と政府で多数を占めても多数の政党に分裂したため、政府の政策形成にほとんど影響を与えることはできなかった。結局、首相職を占めない限りいくら議会や内閣の中で多数を占めても政策に決定的な影響力を行使できないことが明らかになったのである。

こうした気持ちから、借地期限切れ農地の補償問題(ALTA問題)への政府の対応を通じて原住民系フィジー人の中に形成されたのである。そのままの状態が続くと、土地所有の根幹にかかわる法律改正すら現実化するかもしれないという不安感がフィジー原住民系の中に兆した。そこで、フィジアンが自らの権利保護のために憲法的及び政治的枠組みを強化するには、憲法で首相と大統領をフィジアンに限るほかなく、それには新たな憲法の制定が必要であるという結論に導かれたのである。

2.憲法委員会の設置
10月6日に「憲法委員会」(Constitution Commission)の第1回会合が開かれた。この委員会は、アセセラ・ラヴヴ教授(Professor Asesela Ravuvu)を委員長とする大統領任命の12名の委員からなる独立委員会である。この委員会は新憲法について検討を行い、2001年3月末までに政府に報告書を提出することを任務とし、この報告を受けて遅くとも同年6月までに政府が憲法草案を準備する。そして7月から11月にかけて大酋長会議をはじめとするフィジアンコミュニティーに順次諮問した後、12月のはじめに新憲法の公布が予定されている。

第1回会合に出席したガラセ首相は、大統領、大酋長会議、および暫定政府を代表して演説を行い、そのなかで次のように憲法委員会に対し希望を表明した。

1.各委員はそれぞれのコミュニティーを背景にしているが、全国民的な利益を指針として多人種・多文化社会を抱えたフィジーに適した新しい憲法を考え、同時に原住民フィジアンとロトゥマンの利益と希望を考慮すること。

2.フィジーの全国民の意見を広く聴取し、人々の共通意思を探り、それを憲法に反映させること。

3.現状の政治危機を解決する鍵は、原住民フィジアンとロトゥマンのコミュニティーの関心事(=原住民の伝統文化の神聖不可侵性とその保護)を注意深く見つめること。フィジーは42万人以上の人口を占めるフィジアンとロトゥマンのただ一つの祖国なのだから、彼らの文化こそがこの国の「国民文化」とされなければならない。1997年憲法による原住民の利益保護は不十分で、原住民は政府において政策をコントロールしその方向を決定する地位を要求する。

4.人口の多数を占め、フィジーの土地の大部分を所有しているフィジアンが教育、商業、専門職、収入、そして雇用機会において劣位に置かれている現状では、長期間にわたる社会的安定を確保できない。また、人種・文化・性別・経済的社会的地位にかかわらず、すべての市民の基本的権利と自由が維持され保障されなければならない。
このように、ガラセ首相は、憲法委員会の今後の作業への希望を表明するとともに、委員各自が個人的な考慮を犠牲にして、国家とすべての国民のためにより広い利益を考慮することを求めた。ここにフィジーの立憲民主制の回復に向けての基本方針は次のように定まったといえよう。

第1に、新憲法は1997年憲法の改正憲法ではなく、新たに制定される憲法であること。

第2に、新憲法は原住民フィジアン・ロトゥマンの利益・希望に十分配慮することを基本原則とすること。このことから特に次の諸点への考慮が要請される。

1.大統領及び首相の地位は原住民に限られること。

2.原住民の土地所有権が将来にわたって完全に保障されること。

3.経済的・社会的に劣位にある原住民に対し、さまざまな優遇措置が実施されること。

4.原住民以外にも、基本的権利・自由は保障されること。

5.選挙制度の見直し。

ところが、このように新憲法の制定に向かって作業が開始されてまもなく高等裁判所で、暫定軍事政権による1997年憲法の廃止は違憲であり、同憲法はなお効力を有するとした判決が出され、暫定政権の正当性と憲法制定作業に疑問が投げかけられることになった。

3.高等裁判所の違憲判決
(判決の要点) 11月15日にラウトカ高等裁判所(Lautoka High Court)で1997年憲法は現在も有効であり、暫定文民政権の任命は違法であるとの判決が出された。この判決は、5月19日の武装集団による国会占拠事件後、人質危機、軍事政権、そして暫定政権の樹立、といった一連の情勢を経た今日のフィジー憲法の地位についての判断を示したもので、原告はラウトカの避難所にいる一農民で、5月19日以来の一連の事件の結果発生した事態によって不利益を被ったと主張して現在のフィジー憲法の地位についての判断を求めて提訴したものである。 原告の主張とそれに対するゲイツ(Anthony Gates)判事の判決(「宣言的判決」(declaratory orders))は以下のとおりである。
1.5月19日に試みられたクーデタは失敗だったとの原告の主張を、裁判所もこれを認めた。

2.「必要性の法理」(doctrine of necessity)のもとで、マラ大統領によって出された非常事態宣言は違憲であった、との主張に対しては当時フィジーが直面していた状況の中で行われたマラ大統領による非常事態宣言は、憲法の定める条件の中で厳格に宣言され、その結果「必要性の法理」の下で当初から有効性が認められるとした。

3.暫定軍事政権の命令による1997年憲法の破棄は違憲であった、したがって1997年憲法は現在も効力を有しているとの主張に対しては、1997年憲法の破棄は「必要性の法理」の枠内でなされたものではなく破棄は違憲無効であり、1997年憲法はなおフィジーにおける最高かつ有効な法規である。

4.チョードリー政権は合法的に組織された政府であり、依然として正当な政府である。この主張に対しては、次のように判示した。大統領・上院・及び下院で構成されるフィジー国会は、現在もなお存在し、5月19 日現在及びそれ以前の在職者は依然としてその職にある。辞任したラツー・カミセセ・マラ大統領は大酋長会議によって指名された時のまま大統領職にあり、上院議員は依然として上院議員であり、選挙によって選ばれた下院議員は依然として下院議員である。したがって原状回復のため、国会は大統領の裁量によりできるだけ早期に召集されるべきである。その間の政府の地位の不安定を解消するため、大統領にはできるだけ早く首相を任命する任務が残されている。大統領は、下院議員の意見を考慮して、憲法47条及び98条によって下院で信任を得られる政府を形成することができ、その政府がフィジーの政府となる。

(判決の要旨) すなわち、5月19日の文民クーデタは失敗であった、軍事政権による1997年憲法の破棄は違憲で同憲法は依然として有効である、という点については原告の主張を全面的に支持したが、マラ大統領による非常事態宣言は有効であるとして原告の主張は退けた。

また、政府の有効性については原告の主張とは異なった観点からの判断を示した。すなわち、原告の主張は、1999年の総選挙後に形成されたチョードリー政権(人民連合政府)が現在も正当な政府であるということであったが、ゲイツ判決は国会は依然として有効に存在することを認めたが、政府についてはその有効性の判断を示していない。なぜなら、判決はマラ大統領による非常事態宣言を有効としていることから、非常事態下でマラ大統領が憲法106条及び99条に基づいて行った首相及びその他の国務大臣の解任については、憲法手続上問題ないと判断したものと考えられるからである。

したがって、政府は首相をはじめその他の大臣が不在の状況にあるため、大統領は早期に国会を召集するとともに下院の多数の支持が得られる首相を任命し、新たな内閣を形成することを求めたのである。つまり、チョードリー政権の有効性を否定するとともに、現在のガラセ暫定政権の有効性をも同時に否定したのが本判決である。
なお、ゲイツ判決についての我が国の新聞報道のなかで、高等裁判所がフィジーの最終審であるとの記事があったが、これは誤りである。フィジーの司法権は、高等裁判所(High Court)、控訴裁判所(Court of Appeal)、及び最高裁判所(Supreme Court)、並びに法律によって設置されるその他の裁判所に与えられており、最終審は最高裁判所である。

(暫定政府の反応) 暫定政府は、この判決を「宣言的判決(確認判決)」であり法律同様の強制力を持たないとしながらも、判決の「執行停止命令」(stay order )を求めてフィジー控訴裁判所(Fiji Court of Appeal)に控訴するとともに、ガラセ首相は国民に対し暫定政府はフィジーにおける国家政府であり立法府としての活動を継続することを声明した。そして暫定政府の優先政策として、次の3点を挙げた。

1.市民の安全を確保し、フィジー全土における法と秩序を維持すること。

2.国家経済の建て直し。

3.立憲民主制に復帰し新憲法の下で選挙によって国会と政府を組織すること。

また、暫定政府のアリパテ・ゲタキ(Alipate Qetaki)法務総裁(Attorney-General)はゲイツ判決は、政府側の証拠提出が不十分なまま原告側の提示した証拠に基づいて判断されたものであるとして「国民が必要としているのは真の知恵と成熟(true wisdom and maturity)に基づいた判決であるが、この判決にはそれが欠けている」と非難した。

こうしてガラセ暫定政府は控訴裁判所の判決が下されるまで、さらにその任務を継続することを明らかにしたが、この判決が法的にはマラ大統領がなおその職にあると判断したことで、マラ前大統領は、5月29日に遡って辞職することを12月20日に公式表明したと伝えられる。このことでゲイツ判決によって指摘された問題点の一つが解消され、暫定政府の正当性の強化が試みられた。

もっとも、控訴裁判所の判決待ちの現在(2000年1月31日現在)、暫定政権の合法性と正当性について今後どのような司法判断がなされるか依然として不透明感がつきまとうが、暫定政権発足以来半年以上を経過したという事実の積み重ねに対しては、「真の知恵と成熟」に基づいた判断が下されるのではないかと考えられる。5月19日の文民クーデタが「失敗」であったことはすでに明らかではあるが、5月29日の軍事クーデタは「成功」したと判断される事実の集積があるからである。

4.ガラセ首相の年頭演説
ガラセ首相は2000年12月31日の夜、スヴァの政府庁舎で新年の演説を行った。その中で首相は政府の最優先課題として、憲法、土地政策、国民的和解(national reconciliation)を掲げ、地方や離島の貧困層の救済に向けてた政策の実行並びに法と秩序の維持を約束した。それはすなわち、『ブループリント』で表明された諸政策を強力に推進し、フィジアンコミュニティーを他のコミュニティーの水準に引き上げることを意味する。そのほかに、憲法関連の事項については次のように述べられている。

新憲法については2001年末までに公布することをめざし、それまでに憲法見直しのための公聴会を開催し、フィジアンにその考えを述べる場を提供する。そして憲法委員会と暫定政府は、そこで提起された諸問題を注意深く考慮し、新憲法に反映させていく方針であることが明らかにされている。しかし、このことは国民の中で市民権を奪われるものが生まれるということではないことが強調される。新憲法は民主的で代表制的(democratic and representative)なものになり、これまで同様に個々人の基本的人権と自由を守り続けるものであることに変わりはない。

また、現在国民の中には自分たちの市民権が奪われていると信じている人々がいるが、これは誤りである。「基本的権利及び自由に関する命令」(FUNDAMENTAL RIGHTS AND FREEDOMS DECREE 2000)が現在効力を有し、廃止された1997年憲法に規定されていた諸権利、保障、及び保護の規定が維持されているのである。それ故、フィジーは「法の支配」不在の法的真空の中で機能しているかのようにいうのは誤りである。憲法ではなく命令に依拠しているとしても、法律は損傷されず、司法権は法律の究極の保護者として独立して機能し続けている。

2月に控訴裁判所は、1997年憲法がなお効力を有しているとしたゲイツ判決に対する国側の反論を聴取することになっているため、再び1997年憲法の問題が前面に出てくることが予想される。ゲイツ判決は、その意味するところが法律問題を越えるような多くの深い問題を提起している。我々は今のところ控訴裁判所の意見聴取を待たなければならない。暫定政権はつねに集団の利益と人々の福祉、そして国の平和と安全という最高の重要事項に導かれるが、同時にラツー・ジョセファ・イロイロ大統領に権限を委任し、そして暫定政権を全面的に支持している大酋長会議の見解を考慮しなければならない。

このように、ガラセ首相は年頭演説の冒頭に述べて、アファーマティブ・アクション政策の実施や農地問題など触れ、最後は文化や民族の違いを越えて平和と調和と統合をもとめて、国民が協力して運命をともにするフィジー諸島国民を形成することを訴えている。

5.今後の展望
以上、ガラセ暫定政権の主要な政策文書を中心に現政権の政策課題について紹介するとともに高等裁判所の違憲判決についても簡単にふれた。今後暫定政権は『ブループリント』等で示された方向に向かってその政策を順次実施していくものと思われるが、2月に控えた控訴裁判所の判決いかんによっては多少の混乱が生じる懸念もないではない。しかし、現暫定政権が広く国民の支持を得ているように窺われること、そして半年以上にわたって実効的支配を行ってきたという事実は、裁判所といえどもこれを無視するわけにはいかないものと思われる。

問題はむしろ、3月以降にその形が明らかになるであろう新憲法の規定にある。新憲法で暫定政権がこれまでに主張してきたような人種(原住民)要件を大統領や首相をはじめとする一定の公職の就任要件としたり、極端な経済的・社会的優遇措置をアファーマティブ・アクションの名の下に実施しようとするなら、国内のインド系国民のみならず、国際社会からの非難が集中することは間違いない。そのような事態が現実化すれば、フィジーは1990年憲法下よりも「非民主的」な状態になったと評価され、とりわけ国際的にはきわめて困難な状態に陥ることは火を見るより明らかであろう。

こうした点を考慮しながら原住民の利益保護を実現する方策は、ただ一つ選挙制度の改革に絞られよう。本稿で紹介したように、暫定政権も1997年憲法の欠陥は選挙制度にあったという認識を明らかにしている。この点に焦点を合わせた新憲法の制定がフィジーの今後の政治的・経済的発展にとって最良の選択となると考えられる。フィジーにおいて過半数の人口を占める原住民の意思をできるだけ正確に反映するような選挙制度、すなわち比例代表制的な性格を強く備えた選挙制度を導入するだけで、大統領や首相の人種要件なしに原住民系国民が望むような状態が実現されると予想されるのである。新憲法はそのようなものになることを期待したい。

(参考文献)
□BLUEPRINT FOR THE PROTECTION OF FIJIAN & ROTUMAN RIGHTS AND INTERESTS, AND THE ADVANCEMENT OF THEIR DEVELOPMENT.(The Review, July 2000, p.30)

□WHY THE 1997 CONSTITUTION MUST BE CHANGED AND WHY A NEW CONSTITUTION IS NEEDED, PRESS RELEASES, 04 September 2000.(http://fiji.gov.fj/core/press/2000_09_04_2.html)これについては、東裕「フィジー・クーデタ、その後−2001年新憲法の制定へ−」、「パシフィック ウェイ」通巻116号、pp.6-9、(社)太平洋諸島地域研究所、2000年、参照。

□ MR LAISENIA QARASE PRIME MINISTER AND MINISTER FOR NATIONAL RECONCILIATION AND UNITY, ADDRESS AT THE FIRST MEETING OF THE CONSTITUTION COMMISSION, Office of the Constitution Commission, Parliament Friday, 6th October, PRESS RELEASES )(http://fiji.gov.fj/core/press/2000_10_06_2.html

□Full text of Justice Gates ruling, Thursday, November 16, 2000.(http://www.fijilive.com).

□STATEMENT BY THE INTERIM MINISTER MR LAISENIA QARASE, STATE WILL   APPEAL JUSTICE GATES DECISION, 15th November 2000.(http://www.fiji.gov.fj/press/2000_11/2000_11_15-01.shtml

□STATEMENT FROM THE ATTORNEY GENERAL AND MINISTER FOR JUSTICE, ALIPATE QETAKI, IN RELATION TO JUDGMENT DELIVERED YESTERDAY IN THE CHANDRIKA PRASAD CASE, November 16th, 2000.
http://www.fiji.gov.fj/press/2000_11/2000_11_16-01.shtml

□FIJI'S PRESIDENT RATU SIR KAMISESE MARA OFFICIALLY RESIGNS, Pacific Islands Report, 00/12/26.
http://pidp.ewc.hawaii.edu/PIReport/2000/December/12_21_01.htm

□Mr Laisenia Qarase Prime Minister and Minister for National Reconciliation and Unity, New Year's Address, Government Buildings, Sunday, 31st December, 2000 Suva,(The Review, December 2000)

□FIJI GOVERNMENT ONLINE
http://www.fiji.gov.fj/judiciary.shtml

□東裕「フィジー・クーデターの推移」、「South Pacific」(南太平洋シリーズNo.231)、(社)日本・南太平洋経済交流協会、pp.13-16、平成12年7月。

□東裕「クーデタの法理について−フィジーのクーデタ(1987年)を中心に−」、苫小牧駒澤大学紀要第4号、2000年9月、pp.95-118.

□1997年憲法下の選挙制度及び1999年5月の総選挙結果については、東 裕「フィジー諸島共和国の新選挙制度とその思想」(「パシフィック・ウェイ」通巻112号、pp.26-36、(社)太平洋諸島地域研究所、1999年)及び小川和美「フィジー新政権成立の分析」(「同誌」、pp.37-52)に詳しい。