研究員の論文
ソロモン諸島の財政動向

(社)日本ミクロネシア協会オセアニア研究所 研究員玉川浩紀(たまがわこうき)
初出:「ミクロネシア」1998年(通巻109号)pp.32-45.

はじめに
今年7月独立20周年を迎えたソロモン諸島は、現在大きく揺れている。ソロモン諸島は、国民のおよそ80%がサブシステンシー(自給自足)経済を営むうえ、800余の島々に約5000の村落が散在するという地理的要因により国 内市場規模が極めて狭隘でありながらも、これまでコプラ、植物油、魚、ココア、木材および鉱物などの第一次産品を外貨獲得産業として育成・強化に努めてきた。特に木材は、90年代以降同国の輸出総額のおよそ50%、政府歳入の20%強を占めるまでになり言わば“単一歳入源”としての地歩を固めてきた。

ところが、1997年中葉以降木材の国際市場価格が急落し、更に主要輸出相手国である日本や韓国などのアジア市場の景気後退の影響で、木材輸出量が激減してしまった。

周知のように、同国の財政は慢性的赤字状況にあり、特に1995年後半以降債券市場が閉鎖され、総額10億SIドルにもおよぶ国内・対外債務返済および利払いが停止されデフォルト(債務不履行)状態に陥っている。木材輸出量の激減が同国経済に与えた影響は計り知れないものがあると言えよう。折しも97年8月に実施された総選挙の後の首班指名投票の結果、ママロニ前首相らの推す候補者が敗れ、9月にウルファアル新政権が発足した。ウルファアル政権は、EU、アジア開銀あるいはオ−ストラリアやニュージーランドなどの支援の下、“国家再建”をスローガンに一大改革に着手しているが、これまでのところ予断を許さない状況にある。

本稿では、中央銀行の“Annual Report 1997”(Central Bank of SolomonIslands) をベースに、先ず、経済情勢を概観し、次いで、財政事情を眺望することによって同国経済の将来を展望していきたい。

1.近年の経済概況
1997年度の経済成長率は、前年度より3.5%の低下と推定される。この低 下は、特に林業、漁業部門を中心とする第一次産品の落ち込みによる。これらの産品の国際市場価格が低落傾向にあったことや気象条件の影響もあるが、前政権の財政上のミス・マネージメントによる過去2年間におよぶ国内需要の落ち込みが尾をひいている。即ち、継続的なキャッシュ・フロー問題や大規模な累積債務不履行問題の影響である。国債市場は1995年8月以来閉鎖されたままであるし、97年度の予算を見ても、均衡予算という目標に反し前年度よりも赤字額が拡大している。

1997年には、「ソロモン諸島国民統一・和解党」(SINURP)に代わり、「変化のための新ソロモン諸島同盟」(SIAC)が政権に就いた。新政権の誕生は、同国新経済回復にとって好ましい変化をもたらす、と内外から歓迎されている。新政権は、政策・構造改革による持続的経済発展の基盤を構築する旨明らかにしている。

[輸出]
1992年から1997年半ばまで主要産品であった木材は、輸出総額のおよそ50%、政府歳入の20%以上を占める重要部門であったが、97年のアジアの経済危機により大きな痛手を被ってしまった。対外部門における木材輸出減少の影響は、他部門の輸出、特に漁業・ココアが大幅に増大し、97年度末における公的移転の実質的流入が大きく好転しなければ、深刻なものとならざるをえない。もし、そうであれば、対外収支は単一産品への過度の依存により大きな影響を被るであろう。


表1:品目別輸出額(単位:1000SIドル)
1993年 1994年 1995年 1996年
冷凍魚 28589 33066 73987 50355
魚缶詰 48050 60389 65281 48830
魚薫製 6048 5613 6443 6134
魚総計 82687 99068 145711 105319
丸太材 221725 267072 269616 336463
製材 9990 9484 13335 12900
木材総計 231715 276856 282952 349363
コプラ 18533 19770 32852 23510
パーム・オイル 35808 39911 66544 55808
パーム・カーネル 2272 4304 5493 7147
ココア 16804 12549 13424 12855
ココナッツ・オイル 4653 2013 4122 5689
貝類 905 1282 5568 330
947 311 631 181
その他 13172 14585 8426 10374
再輸出 3945 2668 7429 6072
総計 411442 467877 573153 576648
(出所: Central Bank of Solomon Islands, Annual Report 1997.)

[外貨準備高]
97年度の外貨準備高水準は、前年度比29%増の1億5,000万SIドルであっ た。これは、およそ2カ月分の輸入額に相当するが、97年12月のソロモンドルの20%切り下げによるところが大きい。

表2:品目別輸入額(単位:1000SIドル)
  1993年 1994年 1995年 1996年
食料品 52,990 61,255 80,667 81,302
飲料・タバコ 5,482 6,853 10,347 12,046
非食用原料 2,691 4,443 4,884 5,413
石油・石油関連物 40,961 38,250 48,899 60,843
動・植物油、脂肪 1,478 3,449 4,822 3,480
化学薬品 20,727 24,203 27,000 23,845
加工品 91,701 93,284 120,072 119,116
機械類・輸送備品 172,061 177,749 170,697 162,844
雑貨類 42,565 43,627 51,202 60,439
雑貨取引品 5,636 6,393 7,680 7,546
総計 436,289 468,121 526,270 536,874
(出所: Central Bank of Solomon Islands, Annual Report 1997.)

[流動性]
97年前半は輸出が好調であったことにより、クレジットの急激な拡大を回避し、過剰流動性を払拭するための金融政策手段であるボコロ法(the Bokolo Bills)が効果的に機能し、97年度の金融システム内の十分な流動性が確保され、低金利を維持することができた。しかしながら、国内クレジットは、政府の財政問題に加え、不安定な政策環境の下での金融機関の“貸し渋り”のため際立った伸びは見せていない。クレジットの伸び悩みは国内需要水準の低下をもたらし、12月の通貨切り下げまで低いインフレ率を維持することに寄与した。

[GDP]
97年度の実質国内総生産に関する数値はまだ明らかにされてはいないが95年度の7%や96年度の3.5%よりも低いと予想される。第一次部門の生産が 全生産額の大部分を占めているので、同部門の動向次第である。97年度の主要産品に占める第一次産品の総生産指数は、前年度の5%下落に比し8%減を示している。ソロモン諸島の主要輸出品国際市場価格は、前年度よりわずかに上昇している。

表3:実質国内総生産(1985=100)
産業 1992年 1993年 1994年 1995年
農業 113.7 113.1 116.5 116.2
林業 142.4 155.4 169.7 191.7
漁業 150.6 125.9 157.9 219.6
鉱業 57.6 53.9 25.5 26.2
製造業 146.0 156.8 169.6 155.9
電気・水道 178.6 192.2 211.8 230.0
建設業 77.9 80.2 90.7 218.3
小売・卸売業 120.4 127.1 126.7 133.1
運輸・交通 119.3 137.0 151.3 159.1
金融業 184.4 201.8 203.2 203.2
サービス業 153.5 155.6 160.2 154.0
貨幣経済部門のGDP生産 133.8 136.4 144.3 155.7
年間変動率 11.1 1.9 5.8 7.9
非貨幣経済部門:食糧 119.6 122.8 126.0 129.4
非貨幣経済部門:建設業 119.3 121.5 123.9 126.3
非貨幣経済部門のGDP 119.6 122.7 125.8 129.1
非貨幣経済部門の総GDP生産 133.6 136.3 143.4 153.5
年間変動率 9.5 2.0 5.2 7.0
注:1995年度は暫定値
(出所:Central Bank of Solomon Islands, Annual Report 1997.)

[生産]
1992年から95年まで、林業部門と漁業部門の生産水準は大幅な上昇傾向にあり、第一次部門の発展を支えてきた。従って、成長率も高かったが、97年後半の林業部門の失速によって下落傾向に転じている。97年度の木材出荷量は、前年度17%減の65万立方メートルであった。97年度のソロモン諸島の木材の平均価格は、1立方メートル当たり106USドルで、前年度より10USドル 下落している。97年度の総漁獲量は、漁業状況の悪化が続いたため前年度比1%減の4万653トンであった。世界的な漁獲不足の影響で、冷凍魚の年間 平均価格は1トン当たり900USドルであった。

表4:主要一次産品(単位:1000Kg)
  1993年 1994年 1995年 1996年 1997年
コプラ 29,057 22,500 26,148 21,989 28,679
ココナッツ・オイル 4,286 2,827 4,372 3,520 5,399
パーム・オイル 30,986 9,737 29,562 28,680 28,863
パーム・カーネル 7,043 7,183 6,861 6,834 7,005
ココア 3,297 3,337 2,482 2,464 3,907
32,486 39,005 56,133 41,199 40,654
木材(立方メートル) 547 267 - - -
(出所:Central Bank of Solomon Islands, Annual Report 1997. )

パーム・オイルの生産量は、前年度比1%増の2万8,900トン、パーム・ カーネルのそれは約7,000トンであった。パーム・オイルの市場価格は前年 と同水準の1トン当たり568USドルで、パーム・カーネルの市場価格は、前年比15%減の1トン当たり250USドルであった。

97年度のコプラ生産量は、前年比31%増の2万9,000トンに達している。 これは購入地から輸出センターまでの輸送手段の改善、生産地から購入地までのアクセスが容易になったこと、および国内価格がかなり高かったことなどによる。

ココア生産量は、前年度比62%増の3,900トンを記録している。これは市場価格が、96年度の1トン当たり1,455USドルから今年度が1,618USドルに上昇したことによる。

[インフレ]
97年度末のホニアラ物価指数(HRPI)は、前年度の9.2%から8.5%に下落している。このインフレ率は前年度より低下しているけれども、ソロモン諸島の貿易相手国のインフレ率と比較すればかなり高い数値である。輸入品項目指数が7.5%上昇したのに対し、国内産品項目指数は8.9%上昇している。前年度の場合前者が4.9%で、後者は12.1%であった。97年度のインフレ率下落傾向は、96年度第4四半期に溯ることができる。それは当時の政府がクレジットにアクセスできなくなり、96年度第4四半期以降緊縮財政政策を実施したことにより、国内需要が冷え込んだためである。

[通貨切り下げ]
97年12月の政府によるソロモン・ドル切り下げ決定は、国内産品の物価に直接影響する輸入品の物価上昇への強い圧力となっている。それはまたインフレ率の上昇として現れる。

一般的には、通貨切り下げがインフレに与える短期的影響は輸入コストが上昇するのでそれ程大きくはないが、長期的には貿易収支に多大な影響を及ぼす。恐らく数年後にその影響が出てくると予測される。

通貨切り下げのインフレ圧力は企業部門の価格構造を通じて浸透する。価格に影響する国内的要因、特に賃金の物価スライド制、供給抑制および独占的価格取り決めなどが通貨切り下げのインフレ圧力を減じるために有用であろう。この点で、政府が輸入税構造を簡素化する措置を講じることによって輸入コストを削減することなども効果的であろう。その他、賃金凍結、コスト削減措置などを抑制的財政政策スタンスと相まって実施すればインフレ圧力を低下させることができよう。

2財政動向
1997年度の財政動向を見ると、政府の97年度均衡予算評価とは対照的な動きを示している。経常収支は予算評価を大幅に下回っており、1億1,000万SIドルの赤字を記録している。これは貿易クレジット(1,700万SIドル)およびその他の非債務分と負債(債務不履行分9,300万SIドル)である。

97年度の歳入動向は、過去数年間と対照的に弱含みに展開した。97年度の総歳入は、前年度比7%減の3億1,500万SIドルで、予算歳入よりも1億2,900万SIドル少なかった。歳入低下は、主に木材輸出税収入の減少(25% 減)と法人税収入の減少(32%減)に因るところが大きい。1997年以前の木材輸出税収入は、政府の総歳入の20−25%を占める主要な政府収入源であった。97年度の法人税収入の大幅な落ち込みは、顕著な伸びを記録した前年度とは対照的であった。

財務省の税関報告によると、97年2月以降の税の減免措置に因る実質的収入減が記録されている。民間企業に対する無分別な税の減免措置に因る実質的な損失は、97年度だけでも9,600万SIドルに達し、しかもそのうちの2,400万SIドルは木材輸出税関連の損失であった。

総歳出は予算歳出よりも1億3,300万SIドル少ない3億600万SIドルであった。注目すべきは、総歳出の45%が賃金支払支出であったことである。

97年度の債務サービスに関する政府支払いは、97年度予算の1億300万SI ドルに対し総経常支出の4%、1,300万SIドルにすぎなかった。

2年前に始まった政府のキャッシュ・フロー問題は、97年度も未解決のままである。そのために貿易クレジットが増大し、債務総額は97年度末には1億9,200万SIドルに膨らんでいる。そのうち対外債務額は7千500万SIドルで、5千200万SIドルが対外債務分、2千300万SIドルが非債務対外負債分であった。国内負債額は、債務額5,200万SIドル、NPFに3,300万SIドル(使用料、負担金、ローン利息など)および貿易クレジッターに3,200万SIドル の総額1億1,700万SIドルに達している。

政府は、歳入を増大させ、歳出を削減させるための措置として、特定の企業と個人に認めてきた税の減免措置の廃止、税制改革、CDF(選挙区開発寄金)・SICOPSA(離島自治体プロジェクト特別援助寄金)基金の停止および政府支払システムの統一化などを講じてきた。しかしながら、これらの措置は、97年度の総歳入構造にそれ程影響しなかった。

国家財政マネージメントを見ると、以下の2点が優先順位の問題として指摘できよう。先ず、予算過程は、予算評価の質が予算文書をSIG財政計画・マネージメントの一手段として用いられるような基準に合致しうるように、徹底的に改善されなければならない。次に、各省庁間レベルのコミットメント段階で予算支出を監視する制度がない。適切な支出監視手続きが導入されなければ、各省庁に割当られた予算内に支出を抑えることを保証するのは困難である。各省庁の支出を予算割り当て内に抑える措置としては、1週間あるいは1カ月ごとの定期監視が効果的であろう。
97年度の累積政府債務総額は、前年度比15%増の8億1,200万SIドルで、そのうち4億5,500万SIドルが対外債務分、3億5,700万SIドルが国内債務分であった。1億9,200万SIドルの負債分を加えると97年度の累積政府債務総 額は10億400万SIドルに達し、前年度比28%増になる。この増大は主に通貨 切り下げによる為替レートの変動のためである。97年度における新規の借入は、SIG(政府)へのクレジット増大にクレジッターが反発したことにより、目立った動きを見せていなかった。

国債市場は97年度も閉鎖されたままであった。クレジット増加を各金融機関が抑制したために、97年度末の政府の貿易クレジットは6,100万SIドルと なっている。

[歳入]
97年度の国税庁の総税収は、前年度比6%増の1億4,550万SIドルであっ た。この増加分は、所得税(19%増)、政府PAYE(74%増)およびその他の国内税収(42%増)による。ここ数年間総税収の30%を占めてきた法人税収益は32%減少している。民間部門の業績不振が大きく影響している。

97年度の税関部門の総税収は8%減少し、1億4,040万SIドルとなってい る。当部門で最大の落ち込みを見せたのは林業部門・木材輸出税部門で25%下落し、輸入税(7%)、その他の輸出税(19%)およびその他の関税部門(20%)の増大分を相殺している。近年国際貿易税収部門の50%を占めてきた木材輸出税収は、関税部門の総税収に占める割合を減少しつつあり、97年度は41%に低下している。これは木材価格の下落とも密接に関連している。97年11月には、木材輸出に関する税の減免措置が廃止されている。

97年度の公式の木材税率は、1立方メートル当たり250SIドルまでは35%、それ以上の価格の場合は38%であった。しかし、97年12月末現在の実質税率は21%と公式の税率よりも17%も低いものであった。この実質税率の低下率は木材輸出に関する免除額の増大を意味している。木材輸出に関する減免額は2,400万SIドルに達し、そのうち2,000万SIドルが輸出税分であった。

森林保護・環境省によれば、木材企業は97年末までにおよそ30万立方メートル分の木材を備蓄していることが明らかになった。そこで、政府は98年2月に備蓄を減らすための一時的措置として、木材輸出税の引き下げを実施している。同措置により利益を得た企業数は明らかにされていない。

97年度の輸入税収は、前年度比37%増を受け7%増の6,900万SIドルに達 している。97年末現在の6カ月平均の輸入税の実質税率は、1%低下し12%であった。97年12月までの11カ月間の輸入税減免額は7,100万SIドルであっ た。

97年度のその他の省庁の収益は17%減少し2,900万SIドルとなっている。政府所有の森林プランテーションの売却やその他の投資から得られる予定の6,800万SIドル分の予算収入は、売却提案が頓挫したことにより未収のままである。

97年度の政府に対する総譲渡額(Total Grant)は3,180万SIドルで、そのほとんどがSIG資本予算に当てられた。

新政権は、歳入を改善し歳出を削減するためのいくつかの措置を実施している。例えば、国会議員へのCDF基金の停止、地方機関へのSICOPSA譲渡金の支払い削減、特定の個人や企業に認められていた税の減免措置の撤廃(もっとも98年初めには部分的に復活しているが)などである。

[税制改革]
政府は、海外からの技術支援の下、関税率・関税構造の再検討に着手しているが、これは税関部門の税収を増大するためのシステムの簡素化および合理化を企図したものである。従来の物品・サービスの輸出入に対する課税率は0%から250%と格差が大きかったが、新関税構造における課税率は5つ のカテゴリーに分類され、5%から70%に縮小される。実施は98年3月からとなっている。

所得税および法人税に関する変更は、97年度中はなかったが、政府は内国税収部門の課税管理の改善に着手している。近年、同部門の税収が特に法人税関連での落ち込みが激しいことによる。

政府はまた、手数料・管理料、地代および利子(Premium)などの改定作業を進めており、殊に土地のレンタル期間を現在の20−33年間を5−10年間に短縮する計画である。更に地代および金利を引き上げる予定である。すでに調査料、評価料或はライセンス料などは97年に改定されている。

[歳出]
97年度は様々な行政サービスへの支出が膨らみ、政府への大きな財政圧力となった。中でも96−97年度の公務員への賃金支払い費が大きく、97年度は3億600万SIドルに達している。この支出は予算評価を1億400万SIドル上回っている。経常支出の大部分は国内税収と累積債務に負っている。

賃金支払い費の肥大化傾向は94年以降続いている。年間ベースでは、賃金および給料支払い費が総経常支出の45%、1億3,700万SIドルに達している。人件費コストの面から見れば、公務サービス費がもっとも高い。
政府の物品・サービス支出は、総経常支出の51%、1億5,700万SIドルで あった。その内訳は、学校、病院および地方政府への補助金5,200万SIドル、レンタル支払い600万SIドル、契約支払い400万SIドル、公益事業費、駐留軍費および公務関連人件費支払い5,800万SIドル、財務省地方分局2,300万SIドルおよびその他1,400万SIドルとなっている。

政府は債務サービスに経常支出の4%、1,300万SIドルを支払っている。これは予算評価よりも8,000SIドル低い額であった。政府は、過去数年間債務サービスの支払いに積極的であったとは言い難い。そのために97年度の累積負債総額(国内・海外併せて)は、前年度より1億1,000SIドル増え、1億9,200万SIドルに達している。

97年度の現金ベースでの総開発支出は5,810万SIドルに達したと推定され る。開発予算の大部分には海外からの援助金が当てられている。

表5政府財政推移および予算計画(単位:100万SIドル)
予算計画 1994年 1995年 1996年 1997年 90年-96年平均
総歳出 273 354 387 552 257
A.経常支出 256 328 358 336 241
i.支払い 105 111 126 142 93
ii.その他負債 105 147 148 151 102
iii.債務サービス 46 70 84 44 47
B.開発支出 18 26 29 216 15
総歳入 252 275 337 446 221
i.木材収入 61 75 70 96 36
ii.非木材収入 190 200 267 349 185
財政赤字(国内分) 22 79 50 107 35
実質財務          
総歳出 338 360 391 365 284
A.経常支出 321 328 362 306 266
i.支払い 125 124 127 137 103
ii.その他負債 141 134 151 157 112
iii.債務サービス 55 70 84 13 51
B.開発支出 18 32 29 58 19
総歳入 274 309 336 315 232
i.木材収入 86 70 73 58 48
ii.非木材収入 188 239 263 257 184
財政赤字(国内分) 64 51 55 50 52
実質財政と予算の差(%) 24% 2% 1% -34% 12%
総歳出 26% 0% 1% -9% 11%
A.i.支払い 19% 12% 1% -3% 11%
ii.その他負債 34% -9% 2% 4% 11%
iii.債務サービス 20% 0% 0% -70% 16%
B.開発支出 0% 22% 0% -73% 38%
総歳入 9% 12% 0% -29% 5%
i.木材収入 40% -7% 4% -40% 84%
ii.非木材収入 -1% 19% -1% -27% -1%
財政赤字(国内分) 202% -35% 10% -53% 84%
注:予算計画は財務省が毎年2月から3月に公表
(出所:Central Bank of Solomon Islands, Annual Report 1997. )


[財政赤字]
97支出の年全般の歳入動向を見ると、木材輸出税収入の激減、広範な税の減免措置の実施および行政サービス増大などにより歳入の伸びは鈍く、そのために政府の財政赤字は一層の拡大傾向を示している。の国債95年8月市場の閉鎖以降、政府は金融機関からの借入ができなくなってしまった。そこで、歳入を上回る歳出補填す分をるために、政府は金融機関外からクレジットで資金を調達しており、企業に対する累積債務も増大してる。97年い度末現在の貿易クレジットは、前年度よりの負債1,700万SIドル増加し3,200万SIドルの水準に達している。その他も6,700万SIドルから1億6,000万SIドルに膨らんでいる。

[政府債務]
7,500万SIドルの負債を除く、政府の債務総額は前年度比15%増の8億1,200万SIドルに達している。過去数年間債務不履行を続けてきた政府は、 現在クレジッターからその債務サービスを果たすよう強い要請を受けている。97年度の実質債務サービス率は、負債増を反映し総経常支出のわずか4%にすぎなかった。仮に債務サービスがすべて履行されれば、その数値は63%になる。

97年度の政府の対外債務は、前年度比29%増の4億5,500万SIドルに拡大している。その主な要因は97年度末の20%の通貨切り下げ、および教育部門へのIDAローンの削減であった。

負債を除く国内債務は、2%増の3億5,700万SIドルで、国債としては96年水準の2億4,700万SIドルとなっている。

国内債務の主な相手先は、商業銀行1億6,300万SIドル、NPF9,300万SIドル、中央銀行8,200万SIドルである。いずれも国債、国庫証券および開発 債券としての債務である。

負債の増大は政府にとって重大問題で、97年度は前年度の8,200万SIドルから1億9,200万SIドルと大幅な拡大を見せている。

対外負債も96年度の2,600万SIドルから5,200万SIドルに増えている。さらに、USPのような地域的組織やその他の国際機関に対する負債も1,000万 SIドル増え、2,300万SIドルに達している。
他方、国内負債は、前年度比158%増の1億1,650万SIドルで、国債4,140万SIドル、中央銀行の利息分1,050万SIドル、NPF3,260万SIドルおよびその他3,200万SIドルとなっている。

おわりに
すでにみてきたように、ソロモン諸島が置かれている厳しい経済環境の下で、ウルファアル政権は極めて困難な航海に乗出している。

政治腐敗・ミスマネージメント、ドナー国・機関との関係悪化、行政システムの硬直化・非効率化、国内・対外債務の増大など、言わばソロモン諸島が近代化を進める過程で、で独立以来20年かけて体内に蓄積されてきた種々の矛盾−病巣が“負の遺産”としてウルファアル政権に引き継がれている。これらの病巣を切除・摘出するためには多大な時間と労力および強固な政治的意志が必要であるのは言うを俟たない。

同政権は、経済立て直しのために精力的に政治・行政改革および構造調整政策に取組んでおり、例えば、木材伐採企業約40社に対する税の減免措置の撤廃、領海内のカツオ漁に対する年間12万mトンの割当の復活、ホニアラにある2軒のカジノ(うち1軒の登録上の所有者はママロニ前首相)に対する免許再交付の停止(99年4月)、およそ8,000名の公務員に対する再職業訓練の実施、公務員2,000名削減および1年間の賃金凍結など98年前半には次々と新政策を公表している(R. Keith-Reid, Facing the Challenges,Island Business, July 1998)。

ママロニ前政権に対し批判的であったオーストラリアは、新政権の国家再建計画を支援するため3,360万SIドルを拠出する旨明らかにしており、ニュ ージーランドも政策・構造改革を支援するため98−99年に1,400万SIドルを提供する用意があると表明している。

ウルファアル政権は、98年4月、1億500万USドルの独立以来初の均衡予算を公表し、99年末までには国内債務をすべて返済する方針も併せて公にしている。

ウルファアル政権が発足してからすでに1年4カ月になろうとしているが、同政権がその力量を問われるのはこれからであろう。と言うのもこれまでのソロモン諸島の政治史を見ると、単独政権が任期を全うした事例はなかったからである。その意味では政権基盤の脆弱な同政権の今後に大いに注目する必要がある。