PACIFIC WAY

パラオ共和国
  サンドラ・ピエラントッチ 新副大統領インタビュー    

上原伸一(うえはら しんいち)


 6月にパラオを訪問し、新副大統領サンドラ・ピエラントッチ氏にインタビューを行う事が出来た。彼女の発言を紹介して、彼女の基本的な考え方をリポートする。
 
清潔さ
 彼女が第一に強調したのは政治家としての清潔さであった。昨年の選挙で副大統領の
席を争いあった甥のアレン・シード氏との違いは、「彼が政治家から始まって、その地位を足掛かりに開発に乗り出したのに対し、自分はビジネスから始めて政治家になった点である。」と指摘した。「パラオの多くの政治家は、公の事務所を個人的なビジネスのコンタクトの場所に使用しているが私はそういうことは一切していない。ビジネスの分野で地歩を固め、政治に乗り出したのでそうした事をする必要もない。他方、政治家になってからビジネスを展開させている人は少なくない。清潔さ、誠実さこそ私の最も強い点である。」
 
環境問題〜緑の未来
 環境問題は選挙戦に於いて、サンドラ氏とシード氏の間で最も明確な争点となった。積極開発を目指すシード氏に対し、サンドラ氏は環境保護を訴えた。この点について彼女は、「パラオは美しい自然を持っており、パラオの観光はこの自然により支えられている。パラオは小さな国であり、この美しい環境なくして将来は無い。」と環境保護の重要性を訴える。

 「私の考えるパラオの将来は、コンクリートジャングルではなく、緑の未来=グリーンフューチャーである。パラオはここ5年から10年で急速に汚染された。開発が進みわずか10年で大きく変わってしまった。パラオの未来はコンクリートか緑か、どっちの道を選ぶべきかが選挙で問われた。私が当選したという事は、人々が緑の未来を選んだいうことです。」と“緑の未来”を語る。更に「PPR(パラオ・パシフィック・リゾート)は美しいホテルだが、海から見ると綺麗なココナツ林は目にする事が出来ない。私はゴルフ場も好きではない。どちらもパラオ人がそこを使用して楽しむ事はめったにない。下働きの仕事ばかりである。それどころか今ではPPRやパレイジアホテルで働いている多くは外国人でパラオ人ではない。パラオ人はそういう訓練を受けていないからである。」と続けた。パラオの政治家でゴルフ場不要を明言するのを私が聞いたのは彼女が初めてである。又、労働の問題については、「パラオ人が怠惰というわけではない。日本は寒い時期があるからどうしても働かなくてはならない。パラオはそういう事はない。豊かな自然に恵まれたサブシステンス社会が成立して来た。」と分析し、「とはいえパラオは変わって来ている。人々の心も変わって来ている。しかしそうした変化をコントロールする事は出来る。サブシステンス社会を支える豊かな自然環境を守る為、変化を管理する事が大切だと思う。その中で、人々のメンタリティーと産業化、グローバリゼーションとのバランス点を見つけることが必要だ。」と産業化、世界の流れとのバランス問題に言及した。
 
インフラ整備
 一方で、彼女は、「自分は環境保護一辺倒ではない。」とも主張する。「インフラの整備は当然必要だと考えている。大事なのは、開発や社会の変化をコントロールして自然を破壊しないようバランスを取っていく事である。上院議員として、コンパクト(自由連合協定)によりアメリカから入って来たインフラ整備の資金をどう使うか論議して来た。私は、よりベーシックなインフラに資金を使うべきだと主張して来た。社会資本整備基金の使い方は間違っていると思う。わたし自身スポーツは大好きだが、体育館やコンクリートのアバイにインフラ整備の資金を使うのは反対である。スポーツの前に上下水道、教育、病院、コミニュケーション設備等に資金を使うべきで、プライオリティーを間違っている。レメンゲソウ大統領はパラオの開発発展のために50万ドルでグアムに土地を購入したが、私はこれにも反対である。国内のインフラ整備が優先されるべきだ。現状では、大きなホテルができても下水がない状態なのだから。」と基礎インフラ整備の優先を説きつつ、レメンゲソウ大統領との意見の違いにも触れた。「彼は今は環境保護一辺倒。私は今説明した通り、環境保護論者ではあるが、何が何でも自然第一と言うのではなくて、インフラ整備や開発を自然保護とのバランスを考え、自然を壊さない範囲でコントロールして進めて行くというのが私の考え方。ナカムラ前大統領は開発を推し進めたが、国民が変革が急すぎないよう求めた為、レメンゲソウ氏は一挙に自然保護一辺倒になっている。」と大統領との立場の違いを説明した。

 最後に彼女は、「日本の技術者は賢明で、日本の自然環境を考慮に入れて地震対策などを行っている。それに対し、パラオの技術者はパラオの自然環境を考慮に入れずに設計などを行っている。今後日本から学ぶことはまだまだ多いと考えており、日本に期待するところは大変大きい。」と日本への期待を表明した。
 
 サンドラ・ピエラントッチ氏は元々実業家からスタートし、エピソン政権の後半に行政大臣に就任して政界入りした。1992年の選挙で副大統領に立候補し、トーマス・レメンゲソウ・Jr.現大統領に敗れた後商工会議所会頭を務める等、いわば民間事業振興の旗振り役であった。そのため、自然保護に熱心な女性団体の支援を得られず選挙で苦労して来た。昨年の選挙では、ライバルとなった甥のアレン・シード氏が開発促進派の代表格であるのに対抗して自然保護を強く打ち出し女性団体の支持を獲得、選挙戦を制した。とはいえ彼女の本来のバックボーンは、商工会議所を始めとする民間事業者である。 
 こうした経緯から、大統領就任後自然保護一辺倒になっていると広く言われているレメンゲソウ大統領との違いを強調し、自然とのバランスを図ったゆるやかな開発を自らの基本スタンスとして前面に押し出している。

 レメンゲソウ大統領との立場・考え方の違いはかなり根本的なもので、今のところ両者の衝突が表面化していないが、今後の展開は不明である。レメンゲソウ大統領が、正副大統領をランニングメイトとする内容を含んだ憲法改正を持ち出したのも示唆的である。