PACIFIC WAY

<資料>

 
太 平 洋 ・ 島 サ ミ ッ ト 宮 崎 宣 言

 共 に 語 る 未 来

 2000年4月22日(宮崎)
 



 日本と太平洋地域との間の、強い友好関係と共有する利益を認識し、日本及び南太平洋フォーラム(SPF、オーストラリア、クック諸島、ミクロネシア連邦、フィジー諸島、キリバス、ナウル、ニュー・ジーランド、ニウエ、パラオ、パプア・ニューギニア、マーシャル諸島共和国、サモア、ソロモン諸島、トンガ、トゥヴァル、ヴァヌアツ)の元首及び政府代表は、第2回日・SPF首脳会議(PALM2000、太平洋・島サミット)に出席するため、2000年4月22日、日本の宮崎の地において一堂に会した。
 SPF参加首脳は、第2回ハイレベル会合を開催したイニシアティブ、また、宮崎及び東京に滞在中に受けた歓待につき、日本政府及び国民に深い謝意を表した。
 首脳セッションの議論を受けて、日・SPF首脳は、太平洋の現状に関する共通の認識、将来に関する共通のビジョン、そして中長期的な日・SPFパートナーシップの優先分野を記したこの文書を採択した。各国首脳は、環境問題の緊急な性格に鑑み、別途、太平洋環境声明を発出した。
 
太平洋の今日に関する共通認識

 各国首脳は、太平洋の今日の状況につき、以下の認識を共有することを確認した。
 グローバル化の進展は、我々の地域を含め、世界的な規模で多大なる機会と経済的恩恵を生み出している。また、衛星通信や情報技術(IT)及びクリーン・エネルギーといった分野での急速な進展は、孤立や主要な市場からの距離といった、SPF加盟島嶼国が克服しようと苦慮している、島国特有の様々な不利な条件を軽減する可能性を秘めている。SPF加盟島嶼国の国連等の国際的な枠組みにおけるプレゼンスは近年着実に増加傾向にある。
 他方で、SPF加盟島嶼国の多くは必要なインフラへのアクセスに未だ遅れをとっており、また、経済的な脆弱性の克服に苦慮している。また、そうした国々は、国際競争の激化による新たな困難に直面している。環境の悪化、感染症、国際組織犯罪といった、人間の安全保障に関わる問題が人間の生存・生活・尊厳に脅威を与え、域内諸国に大きな影響を与えている。
 
太平洋の明日に関する共通のヴィジョン
 
 日本とSPF諸国の首脳は、力を合わせ、国連及びSPF事務局を始めとする地域・国際機関とその他の関係国と緊密なネットワークを保ちつつ、グローバル化の大波を乗り切るとの決意を新たにした。そのような決意を基に、各国首脳は、太平洋の明日に関する共通のヴィジョン、及び、このヴィジョンに向けて協力するための、共有する中長期的優先分野を記した。
 
(太平洋島嶼国の持続可能な開発)
 各国首脳は、経済的・政治的にも自立したSPF加盟太平洋島嶼国が、様々な国際的な枠組の中で、重要なプレイヤーとして積極的な役割を果たしつつ、平和と繁栄を享受するような太平洋の明日を希求する。首脳は、日本・SPF協力に関する、以下の中長期的優先分野の重要性を確認する。
 この目的のため、各国首脳は、持続可能な開発を促進するための改革に対するSPF加盟国のコミットメントを賞賛し、域内外の援助国による、効果的かつ継続的支援、及びSPF加盟島嶼国によるそうした自助努力の継続の必要性を強調した。
*教育・訓練の充実、産業の発展及び促進の支援、情報通信技術の積極的活用・導入と幅広い普及を通じた人材育成
*経済改革、民間部門の発展、及び改善された貿易・投資環境の促進
*クリーンエネルギー開発を含む、SPF加盟島嶼国の生活と産業の基盤となる基礎的インフラの、環境に優しい形での改善
*国際貿易ルールに関する将来の交渉を通じて、SPF加盟島嶼国を含む全ての国にとってバランスのとれた成果を希求
*経済、環境面での島々の脆弱性を緩和する適切な措置の策定
 
(地域及び地球規模の共通の課題)
 各国首脳は、漁業資源及び海底鉱物資源を含む、美しい島々と豊かな海といった周辺環境の恵みが末永く世代を越えて享受されるような太平洋の明日を希求する。また、各国首脳は、グローバル化の流れの中にあって文化の多様性及び個々人の安寧と福祉が尊重され、守られることへの強い希望を表明した。各国首脳は、地球規模及び地域の平和と繁栄の課題により効果的に取り組めるよう、国連を始めとする国際的枠組みの強化に向けて真摯に努力する。
 それ故、各国首脳は、国際的分野での日・SPF協力に関する以下のような中長期的な優先分野の重要性を確認した。
*気候変動等の地域環境問題への積極的な取り組み
*西部及び中部太平洋における高度回遊性魚種資源の保存管理に関するハ イレベル会合(MHLC)のプロセス、及び地域的な衛生による漁船位置通報システム(VMS)が進展していることを認識しつつ、海洋生物資源(特に魚種)の保全、発展及び運営の枠組みを強化
*海底鉱物資源及び再生可能な資源に関する問題への対処で協力を強化
*文化的多様性の保護と尊重の促進
*感染症、難民・避難民、資金洗浄含む国際組織犯罪のような、グローバル化により人間の生存・生活・尊厳に脅威を与える、人間の安全保障の問題への取り組み
*太平洋地域を通過する放射性物質の輸送に関する太平洋島嶼国の懸念 (特に安全、そして輸送時に事故が発生した場合の潜在的な経済損失)に対処するため、沿岸国と輸送国との対話の推進に協力
*国際組織や国際場裡において共通の利益を促進するために協力
*ミレニアム・サミットの機会を活用し、安保理改革を含む包括的な国連改革を早期に実現。
 
(日・SPFパートナーシップ)
 各国首脳は、日本とSPF諸国を含む太平洋島嶼部が、信頼と友情に基づく継続的な真のパートナーシップを享受するような太平洋の明日を希求する。そうしたパートナーシップと友情は、伝統・文化の相互理解、交流及び人と人との接触を促進する継続的努力によって育まれるべきである。
 この目的のため、各国首脳は、日・SPFパートナーシップに関する以下のような中長期的な優先分野の重要性を確認した。
*首脳・閣僚レベルを含めたあらゆるレベルでの対話の促進
*SPFを含む太平洋の地域機関と日本との連絡・協力の促進
*貿易・投資・観光を通じたビジネス面の交流の促進
*知的交流・文化交流・草の根交流の促進 
        (注)PALM2000は、Pacific Islands' Leaders Meetingの略
 
 
太平洋環境声明(2000年4月22日、宮崎)
 
 日本とSPFの首脳は、気候変動、廃棄物管理、汚染防止、生物多様性等の環境問題が、日本を含む太平洋の島々の将来にとって重大な問題であると認識し、環境についての、この特別声明を発出することに合意した。
 
1.太平洋島嶼国の豊かな文化と伝統は、自然との緊密な調和の中で育まれた。持続可能な開発に向けては、自然環境との調和に十分配慮していくことが極めて重要である。また、環境問題に効果的に対処すべく、日本とSPFとの間の協力をより一層強化していくことが必要である。

2.海抜の低い島嶼国の消滅を含む、主要な経済的、社会的、文化的困難を引き起こす、気候変動、気候の変化性及び海面上昇は、大変深刻な問題である。これは行動を要する喫緊の課題である。我々は、一刻も早く京都議定書を発効させることを目的に国連気候変動枠組条約第6回締約 国会議の成功を追求し、積極的に交渉することで合意した。

3.島の陸上生態系、サンゴ礁、マングローブ林等を含む生物の多様性は、正に太平洋島嶼国の生活及び文化を豊かにするかけがえのない財産である。このような貴重な資源を未来の世代に確実に引き継いでいくためには、沖縄その他の島々や太平洋域内にある知識や技術を活用しつつ、生物多様性を保全し持続的に管理していくことが、活動の優先分野と考え られるべきである。

4.適切な訓練、技術移転や人材育成と連結した環境教育は、資源をより 有効に管理し、環境問題により適切に対処する太平洋地域の能力をより一層強化するための礎石となる。また、G8サミットを含む国際社会にとって、こうした喫緊の地球環境問題に前向き且つ建設的に取り組むことが重要である。
 
 
太平洋フロンティア外交宮崎イニシアティブ(平成12年4月22日)
 
 太平洋・島サミットの機会に、「太平洋フロンティア外交」の具体例として日本側の提示したイニシアティブ(宮崎イニシアティブ)は次のとおり。

1.持続可能な開発に対する協力 

(1)「人造り」
 イ.「開発のための人造り」: 国際協力事業団(JICA)による研修員、青年招聘等の開発人材受入れ、専門家、青年海外協力隊、シニアボランティア等の人材派遣等を今後5年間で3000人以上の規模を目指し実施  する。
 ロ.「教育機会の提供」: 先のG8教育大臣会合での意図表明(今後10年間で学生、教員、研究者、行政官の交流規模を2倍にしていく)を踏まえ、太平洋島嶼国との交流も拡大する。そのために国費留学生制度や私費留学生への支援等を推進する。
 ハ.「働く女性の支援」: 国連開発計画(UNDP)に我が国が拠出しているUNDP・開発と女性基金(WID基金)を、女性の所得創出への機会向上等の女性支援のために今後とも積極的に活用する。

(2)「太平洋IT推進プロジェクトの実施」: 国連開発計画(UNDP)への我が国の拠出金から100万ドルを使って、情報通信技術(IT)推進のための人材育成、南太平洋大学の遠隔教育システム「USPネット」や国連の「小島嶼国ネットワーク」と連携したホームページの構築、ITを活用した遠隔教育、遠隔医療、マングローブ保全(国際マングローブ生態系協会が関連)等のプロジェクトを、沖縄における知見も踏まえつつ実施する。

(3)「産業振興」: 人材育成の視点に立った産業振興を図るため、日本貿易振興会(JETRO)が中心になって「広域専門家による国別産業診断」、「テーマ別産業振興ワークショップ」、「産業振興に関する国際シンポジウム」等を実施する。

(4)「経済改革努力への支援」: 国際金融機関との協調の下、構造調整・貧困削減努力を行っている島嶼国に対し、国際収支支援を行うための無償資金協力について検討する。

(5)「健全な経済制度の整備」: 経済のグローバル化が加速的に進行していく中、SPF諸国が国際経済システムにより良く統合されていくことが重要。SPF諸国の税制や経済・財政政策について、関係諸国政府やOECD等の国際機関の協力を得た上で、域外の専門家も交えての議論を行う。 

2.地域及び地球規模の共通の課題

(1)「環境問題への多面的な取り組み」
 イ.「海洋・気象観測の実施」: 太平洋地域の海洋・気象観測を、太平洋島嶼国の協力も得つつ、継続的に実施していくことにより、地球規模の気候変動メカニズムを解明し、地球環境問題への対処方法を探る。
 ロ.「珊瑚礁保全」: 我が国無償資金協力によりパラオに建設中の珊瑚礁研究・見学施設「珊瑚礁センター」を、将来的に太平洋島嶼国の珊瑚礁保全協力の拠点として活用する。 
 ハ.「廃棄物対策」: 我が国無償資金協力によりサモアで建設予定の、南太平洋地域環境計画(SPREP)研修センターにおいて、島嶼国を対象とする廃棄物対策ガイドラインの作成、及び沖縄での廃棄物対策にかかる研修等の実施を検討する。
 ニ.「新・再生可能エネルギーの導入」: 太平洋島嶼国のエネルギー構造と貿易収支の改善に向けた協力として、新・再生可能エネルギーの地域における利用可能性の調査及び導入の意義、先行事例の紹介のためのワークショップや、具体的な導入方法を検討するためのシンポジウムを実施する。 
 ホ.「水産資源の有効利用」: 南太平洋大学(USP)の海洋研究施設(我が国水産無償により建設済み)を中核とした広域的な人造り協力を検討する。また沖縄国際センターにおける、島嶼国を対象とする熱帯沿岸資源管理に係る研修を、99年度に引き続き2000年度以降も継続する。
 ヘ.「海洋資源調査の実施」: 国際協力事業団(JICA)及び金属鉱業事業団は、南太平洋応用地球科学委員会(SOPAC)からの要請により海底鉱物資源埋蔵状況調査(海洋資源調査)を、環境影響調査も含め2000年度より実施する。

(2)「文化の分野における取り組み」
 イ.「文化遺産の保存」: 国連教育科学文化機関(UNESCO)無形文化財保存振興、日本信託基金を活用した太平洋地域における初めてのプロジェクトとして、「メラネシアの消滅の危機に瀕する言語保存」プロジェクトを実施する。
 ロ.「著作権制度の充実」: 世界知的所有権機関(WIPO)との協力の下、島嶼国における著作権制度の整備・普及を支援するために、太平洋島嶼国地域を対象として、著作権関係の人材育成にかかる各種セミナー、研修、専門家派遣等の協力事業を実施する。

(3)「人間の安全保障」: 国連難民高等弁務官(UNHCR)事務所、世界保健機関(WHO)、国連人口基金(UNFPA)等国際機関と協力して、国連の「人間の安全保障基金」より200万ドルを拠出し、難民支援、性と生殖に関する権利、エイズ等の感染症対策、等に関するプロジェクトの国連機関による実施を支援する。

(4)「人々の健康を守る」: 国際協力事業団(JICA)は、成人病、エイズ、結核等への対策を含めた島嶼国を対象とするワークショップを、オーストラリア国際援助庁(AusAID)と連携し実施する。 

3.日本とSPF諸国の間のパートナーシップの強化

(1)「知的対話の促進」: 「太平洋知的対話ミッション」を派遣し、日本語普及・日本研究の促進、SPF諸国の文化財の保存、知的財産の記録・保全を図るとともに、沖縄の知的資源を活用した知的ネットワーク構築等を支援する。また、その一環として琉球大学等においてワークショップを開催する。 

(2)「地域機関への支援」
 イ.「南太平洋フォーラムへの支援」: 知的交流や文化交流等の促進を目途に南太平洋フォーラム(SPF)に対して100万ドルを拠出済み。
 ロ.「太平洋諸島センターへの支援」: 太平洋諸島センター(PIC)の機能強化のため3000万円を拠出する。また広報、物産展や各種展示会への積極的参加、及び市場調査、セミナー開催等の活動を引き続き支援していく。また、島嶼国の民間セクター支援の一環として、太平洋諸島センター(PIC)のITを使った対日輸出・対島嶼国投資関係情報発信を支援するため我が国より別途300万円を支出する。
 ハ.「PICHTRへの支援」: ハワイの太平洋ハイテクセンター (PICHTR)によるエネルギー、資源、情報工学、バイオ工学などに関する研究・開発活動や、人材育成プログラムを引き続き支援する。
 
参加首脳  

  日本 森喜朗首相
  パラオ クニオ・ナカムラ大統領
  キリバス テブロロ・シト大統領
  ミクロネシア連邦 レオ・ファルカム大統領
  マーシャル諸島 ケサイ・ノート大統領
  サモア トゥイラエパ・サイレレ・マリエレガオイ首相
  ニウエ サニ・ラカタニ首相
  ツバル イオナタナ・イオナタナ首相
  フィジー マヘンドラ・パル・チョードリー首相
  クック諸島 テレパイ・マオアテ首相
  バヌアツ バラク・テメ・ソペ首相
  トンガ ウルカララ・ラバカ・アタ首相
  オーストラリア アレクサンダー・ダウナー外相
  ソロモン諸島 パティソン・オティ外相
  ニュージーランド フィル・ゴフ外務貿易相
  ナウル キンザ・クロドゥマール大統領補佐相
 

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 なお、太平洋・島サミットに関する詳細情報は、外務省のホームページ
  http://www.mofa.go.jp/region/asia-paci/spf/palm2000/palm-summit/index.html
 に掲載されている。