PACIFIC WAY
フィジー・クーデター:クロノロジー
(社)太平洋諸島地域研究所研究員
芳島昭一(よしじま しょういち)

◆5月19日 武装集団によるクーデター発生―首相らを国会議事堂内に監禁
インド系住民とフィジー系住民の対立が激化していたフィジーで、フィジー系武装集団によるクーデターが発生。首都スバの国会議事堂が占拠され、マヘンドラ・チョードリー首相を含む複数の閣僚が国会議事堂内に監禁された。この日の朝、ライフルやピストルで武装した集団7人が国会議事堂を襲撃。直後に武装集団の指導者であるジョージ・スペイト元実業家がラジオ・フィジーを通じ、「フィジー系住民による暫定政権樹立」を宣言した。また、インターネットを通じて「全権を掌握した」と広言、野党フィジアン・アソシエーション党のラツー・チモシ・シラトル議員を暫定首相に指名したと発表した。この日は、チョードリー首相がインド系住民として初めて首相に就任した日から丸1年目にあたり、インド系住民との対立を深めていたフィジー系住民約1,600人が、スバの通りから国会議事堂に向けて抗議デモを行った。襲撃事件発生後、スバでは商店のガラスが割られるなど暴動となり、放火とみられる火災も随所で発生した。先住民系のマラ大統領は、武装グループを非難すると同時に非常事態を宣言し、治安の回復に全力をあげると述べた。マラ大統領の非常事態宣言に伴って、首都では午後6時から午前6時までの夜間外出禁止令が発令された。国会では終日、先住民系のランブカ前首相が武装グループに対し、監禁されているチョードリー首相と閣僚らを解放するよう説得にあたった。

◆5月20日スペイト氏が暫定首相就任を宣言
武装集団の指導者であるスペイト氏が、自らが暫定首相となることを宣言した。前日暫定首相に指名された野党議員、ラツー・チモシ・シラトル氏は暫定大統領となった。宣誓式は議事堂近くにいる報道陣の面前で行われたが、外国報道機関は取材を拒否された。また同指導者は憲法改正と議会の解散を宣言した。スペイト氏は、マラ大統領に、軍隊の撤退を要求し、受け入れられない場合はチョードリー首相を殺害すると脅した。こうした状況に、英連邦のドン・マッキノン事務総長は、「フィジーに民主的な政府が復活するまで、国際社会はフィジーとの関係を中断するよう」訴えた。同日人質になっていた国会職員20人が解放された。また、監禁中のチョードリー首相が、過労のため倒れたと伝えられ、武装集団に暴行を受けたとの情報も流れた。一方、首都スバでは、騒乱に乗じた商店の略奪など治安悪化が目立ち始め、商店街では167軒が略奪の被害にあい、15軒が破壊され、269人が逮捕された。

◆5月21日大統領、クーデター政権を拒否―解放議員で臨時内閣樹立を検討
武装集団は、政権樹立の容認とマラ大統領の辞任を求め、要求が入れられなければ人質の殺害を開始すると警告した。しかし、同大統領は要求を拒否、解放された若手閣僚らで臨時内閣の設置を検討していると述べた。武装集団のスペイト指導者は報道機関との接触を行っていたが、マラ大統領は非常権限を発動、報道機関に武装集団の主張の報道を禁止し、議事堂の半径1キロ以内への立ち入りを禁じた。警官隊が突入を試みた報道陣を阻止したことで、武装集団が威嚇発砲を行った。一方、マラ大統領はスペイト指導者との接触を試み始めた。

◆5月22日スペイト氏、撤退を示唆
武装集団のスペイト指導者は、「首長大評議会(大酋長会議)の支持が得られなければ、撤退する」と語り、場合によっては監禁を止める意向を示した。スペイト指導者は、マラ大統領による恩赦を拒否。暫定政権容認、マラ大統領辞任の強い姿勢を崩さなかった。しかし、早期に軍や警察がマラ大統領への忠誠を誓い、支持拡大が望み薄となってきた状況から、撤退発言になったとみられる。一方、マラ大統領はこの日、事件解決後の「内閣の一新」を明言。本人の意思によるとしたものの、監禁中のチョードリー首相の更迭も示唆した。

◆5月23日首長大評議会、首相らの解放求める―武装集団、病気の議員ら4人解放
先住民の有力者で構成する首長大評議会(議長はランブカ前首相)は会合を持ち、武装集団の要求を拒否、チョードリー首相ら人質を解放するよう求めた。武装集団のスペイト指導者に対しては、逮捕が妥当とした。大評議会の決定により、先住民系による国家運営を唱えて国会議事堂を占拠したスペイト指導者は窮地に立たされた。自らが臨時首相となる暫定政権の容認、マラ大統領の解任、憲法改正要求はいずれも拒否された。同日、武装集団は病気の議員2人を含む4人を解放し、また、欧州連合(EU)はこの日、6月8日にフィジーの首都スバで予定されていたアフリカ・カリブ海・太平洋地域(ACP)71カ国との、援助に関する協定締結式を中止すると発表した。同協定は、1975年にトーゴのロメで結ばれたことからロメ協定と呼ばれているが、第4次ロメ協定が今年2月で失効したことから、スバ協定として新たに調印が行われる予定になっていた。

◆5月24日英連邦事務総長ら、人質の解放求める
首都スバ入りした英連邦のマッキノン事務総長と国連のデメロ事務総長特別代表(国連東ティモール暫定統治機構特別代表)が武装集団のスペイト指導者と会見し、人質の即時解放を求めた。

◆5月25日臨時政権組閣へ、首長大評議会が方針
首長大評議会は、チョードリー政権に代わる臨時政権任命の方針を決めた。これを受け、マラ大統領は同日中に新政権の組閣に着手した。臨時政権づくりには、武装集団も助言委員会のメンバーとして参加させるとしたが、武装集団側はこれを拒否し、憲法の即時改正とマラ大統領の辞任を求めた。同日の大評議会には、武装集団のスペイト指導者も出席した。この日の会合では、武装集団に対して恩赦付与の決定も下された。一方、英連邦のマッキノン事務総長は、「大評議会の決定は、明らかに憲法違反であり、国際的な常識からかけ離れている」と非難し、「英連邦は臨時政府など容認しがたい」と語った。オーストラリアのダウナー外相も、「スペイト氏の勝利は受け入れることができない」と述べ、武装集団に対する妥協的な解決が図られた場合、フィジーに対する制裁の用意があると警告した。

◆5月26日首相解任認める方向―国際社会、反民主的と反発
首長大評議会の決定により、チョードリー首相の解任を認める方向に進んでいることに国際社会が一斉に反発。国連のアナン事務総長が、暴力に屈する形での首相の解任を強く非難したのをはじめ、英国のクック外相も「民主主義の原理にのっとり解決すべきである」と語り、スペイト元実業家を逮捕、裁判にかけるよう求めた。オーストラリアのダウナー外相は、「英連邦からの締め出し」を提案。また日本も、現在の政治指導者を代えない形での事件解決を求めた。

◆5月27日国会近くで銃撃戦―3人が負傷
首都スバで小規模な銃撃戦が起き、AP通信社のカメラマンを含む3人が負傷した。報道によると、武装集団が占拠する国会議事堂の近くで、武装集団とフィジー軍が衝突し、30発から40発前後の発砲があった。カメラマンは腕、フィジー軍兵士2人は腕と足を負傷した。

◆5月27日大統領が首相解任、国会も休会―政治的決着目指す
マラ大統領は政治的決着を図るとしてチョードリー首相の解任を発表、同時に国会を6ヶ月間休会すると述べた。同大統領はチョードリー首相の解任と引きかえに武装集団の首謀者スペイト氏に対し人質となっている要人の解放を求めた。

◆5月28日武装集団支持者、テレビ局を襲撃
同日夜、武装集団の支持者百人によるフィジー・テレビ局に対する発砲、襲撃事件が発生した。同テレビが首謀者のスペイト元実業家を批判したことへの報復とみられる。同事件で警察官1人が撃たれ、病院で治療を受けていたが、翌29日朝になって死亡した。今回の一連の事件での死者はこれが初めて。インターネットニュース「フィジーライブ」によると、銃とナイフで武装した約百人がスバ市内に繰り出し、フィジー・テレビ局の内外から発砲音が聞かれたという。発砲はマラ大統領の自宅裏門付近でも聞こえたとの情報もあった。一方、武装集団の首謀者スペイト実業家は、近くチョードリー首相ら30人以上の人質を解放すると語った。

◆5月29日豪・NZが制裁措置を検討
オーストラリア労働者組合連盟は、一連の事件が民主主義を破壊するものとして、フィジーとの物資輸送、郵便などのボイコットを決行。輸送労働者組合も同様のボイコットを決めた。また、オーストラリア、ニュージーランド両国政府はこの日、閣議で制裁措置を検討した。英国のクック外相は、マラ大統領の支持と人質の解放を改めて求めた。29日のスバの街は、武装集団が再度市内を襲撃するとの噂が流れ、フィジー警察は市民に外に出ないよう警告した。

◆5月29日軍が全権掌握―マラ大統領辞任
バイニマラマ軍事司令官が戒厳令を布告するとともに、軍による全権掌握を発表した。フィジー軍のバイニマラマ司令官は同日記者会見し、同日朝、軍幹部とともにマラ大統領と会い、その場で権力委譲を受けたことを明らかにし、「軍事政権の目的は、平和と安定を回復することである」と述べた。また同司令官は国営ラジオを通じて声明を発表し、「全国民がフィジーの堕落ぶりを嘆いている。不本意ながら行動に出た」と語った。マラ大統領らが武装集団に対し、妥協案を次々と提示してきたのに対して、バイニマラマ司令官は、武装集団が立てこもっている国会議事堂への補給は食料などに限り、包囲網を狭めていくとの方針を示した。一方、武装集団を率いるスペイト元実業家は、軍からの圧力がかかれば、「人質の中から、先ずマラ大統領の娘から殺す」と警告した。

◆5月29日外務省、渡航を見合わせを勧告
外務省邦人保護課は、フィジー情勢が緊迫化したことから、首都スバを危険度3(全5段階)地域に指定し、渡航を当面見合わせるよう勧告した。

◆5月29日豪とNZ、制裁決定
オーストラリア、ニュージーランド両国政府は、要人監禁事件の合法的解決と民主的な政権の復帰を促す意味から、フィジーに対する制裁措置を決めた。両国とも制裁発動まで、しばらく事態の推移を見守ると述べた。オーストラリアは軍事関係を停止するほか、経済支援を削減、スポーツ交流も取りやめ、ニュージーランドは人道的な分野を除いて、援助などを停止する予定であるとした。武装集団を率いるスペイト元実業家はオーストラリア永住権を取得していたが、これも取り消された。

◆5月30日軍司令官、武装勢力側と会談
フィジー軍の全権掌握で街は平穏を取り戻した。また、バイニマラマ同国軍事司令官と武装集団の首謀者スペイト元実業家との会談も始まった。会談では、憲法改正、武装集団への恩赦などが話し合われた。

◆5月30日軍司令官、現行憲法を廃止―新首相に前陸軍司令官を選出
戒厳令を布告し、全権を握ったバイニマラマ軍司令官は、1997年に改正された現行憲法の廃止命令を出した。インド系住民の政治的権利を拡大した現行憲法は、解任されたインド系のチョードリー首相が選出される根拠となっていた。また、現行憲法廃止は、先住民系武装集団の首謀者、スペイト元実業家の人質解放のための条件でもあった。マラ大統領辞任とチョードリー首相の解任に加え、憲法の廃止命令が出されたことで、スペイト元実業家の要求はほぼ実現した。また、同司令官は臨時政府の新首相にマラ大統領の娘のコイラ・マラ・ナイラティカウ観光・産業相の夫であるラトゥ・エペリ・ナイラティカウ前陸軍司令官を指名した。前陸軍司令官は先住民系の大部族出身で軍との関係が深いとされる。実権を握った軍によるこの日の決定がインド系の反発を招くのは確実で、民主主義の回復を訴える国際社会からの非難を受けることは避けられない情勢となった。

◆5月31日軍司令官が大統領就任へ
フィジーの全権を掌握するフランク・バイニマラマ軍司令官が大統領に就任する見通しとなった。しかし、オーストラリアのダウナー外相は前日、外交筋の話として、バイニマラマ司令官は自ら政権を担う意思はなく、文民による暫定政権樹立を考えていると話していた。同司令官は、内閣には政治家を入れず、軍人と実業家で構成するとした。2,3年の間に新憲法を制定し、総選挙を行い、本格政権の樹立を目指すもようだと伝えられた。先住民系武装集団の首謀者、スペイト元実業家は、ナイラティカウ前司令官はマラ大統領に近すぎるとして、彼の就任を拒否。また、スペイト元実業家の支持者がスバ市内の道路上で、インド系運転手らの車数台を止め、暴行を働き、カージャックする事件が起きた。約200人の武装集団支持者が暴徒化し、軍もスバ市内に展開、緊張状態となったと伝えられた。

◆5月31日軍司令官、3年間は軍政続くとコメント
全権を掌握し、大統領就任を宣言したバイニマラマ司令官は、「フィジーの民主主義は3年間戻らないだろう」と語った。軍政は、新憲法を制定、総選挙を実施するまでの間続くことになる。先住民系武装集団の首謀者スペイト元実業家は、軍政は望まないと反発。「人質は必要なだけ拘束する」と述べ、解放が遅れることを示唆した。軍と武装集団の話し合いは4時間に及んだが進展はなかった。

◆6月1日各国政府、制裁を検討
インドのシン外相はロンドンで英連邦および英国政府と会談し、フィジーの臨時政権に対する国際的な圧力を訴えた。また、カナダのアクスワージー外相は「この問題は厳しく糾弾されるべきである」とし、5日に英連邦閣僚行動グループ会議を開き、話し合う意向を示した。米国務省も、制裁を考慮していることを明らかにした。

◆6月1日近く、人質解放の動き
バイニマラマ国軍司令官のスポークスマンは、武装集団との交渉に大きな進展があったと発表した。AAP通信によると、同スポークスマンは「今後24〜36時間以内に監禁問題で大きな動きがある」とし、人質解放が近いことを示唆した。

◆6月1日戒厳令 ― 米が制裁警告
米国務省のリーカー副報道官は、軍司令官が戒厳令を布告して実権を掌握し、憲法を停止する事態となっているフィジーに対し、「他国と共に制裁の実施を検討している」と警告した。

◆6月2日週末にも人質解放か
スペイト元実業家は、地元ラジオの放送を通じ、「人質は今週末に解放する」と語った。同元実業家はまた、武装解除する条件として、軍のスバ市街地からの撤退を求めた。

◆6月2日首相ら5日までに解放か
先住民系武装集団は、全権を掌握している軍との間で、チョードリー首相ら人質を解放することで合意。スペイト元実業家は「5日までに解放する」と語った。合意により武装集団は武装解除し、軍はスバから撤退、5日に開く首長大評議会で軍主導の軍政を続けるか、文民を首相とする臨時内閣を発足させるかを決定することになった。元実業家の支持者がこの日朝、解任されたチョードリー氏の子息宅を襲撃、夜には発砲事件が起きた。

◆6月3日人質解放交渉が決裂
同日中に合意文書に調印する予定だったが、人質解放後に国軍がフィジーの実権を握ることに武装集団側が反発したため、人質解放交渉が決裂した。

◆6月5日軍司令官、人質解放へ最終期限通告
フィジーで全権を掌握し、大統領就任を宣言したバイニマラマ司令官は、先住民系武装集団に対し、武装を解除し、人質を解放する最終期限を通告した。スペイト氏らが免責を得るための最終期限となるが、守られない場合にどのような措置がとられるかは明言しなかった。

◆6月5日人質解放交渉が決裂
全権を掌握するフィジー軍のバイニマラマ司令官が、武装集団の首謀者スペイト元実業家との交渉打ち切りを表明。これに対しスペイト元実業家は、「もし国軍が国会に突入するようなことになれば、人質を殺す」と警告した。バイニマラマ司令官は、監禁事件に対する国内外の圧力を考慮し、「国の状態を正常に戻したい。武装集団からの要求に関しては、人質31人の解放と武装解除に応じた後、恩赦を出すことは考えている。それ以外の要求は受け入れることはできない」と語り、これまでの対話路線から、強硬姿勢に転じた。スペイト元実業家が臨時政権入りを目指していることに関しても、「その可能性はない」と突き放した。

◆6月5日武装集団攻撃を否定
全権を掌握するフィジー軍のバイニマラマ司令官は、武装集団が占拠する国会議事堂への攻撃を否定。同司令官は、武装集団の首謀者、スペイト元実業家の支持者の兵士に対し、武器を引き渡し、投降するよう求めた。

◆6月6日英連邦が制裁措置―民主化回復まで技術援助差し止め
4カ国で構成される英連邦の臨時外相会議がロンドンで開かれ、要人監禁事件が続くフィジーについて、民主政が回復するまで、同連邦会議への参加を停止し、一切の技術援助を差し止める制裁措置を決めた。同会議には英国、カナダ、オーストラリアなどの外相、外務担当相などが出席した。比較的軽い制裁になったことについて、オーストラリアのダウナー外相は、「経済制裁を行えば、同国だけでなく、サモア、トンガなど周辺諸国への影響が大きいため。」と述べた。

◆6月7日国会で発砲
朝、武装集団による発砲事件と近くの民家襲撃事件が起きた。武装集団が占拠する国会議事堂内で発砲があり、続いて武装集団の支持者が、議事堂近くの民家に押し入った。これに対し、フィジー軍が警告の発砲で追い払った。

◆6月8日西地区先住民、「別同盟」を結成へ
フィジー本島(ビチレブ島)の西地区に住む先住民の族長50人以上が会合を開き、「首都スバがある東地区とは別の同盟を作る」と宣言、国民分裂の懸念が出てきた。国際空港のあるナンディを含む西地区の先住民は、東地区よりも経済的に恵まれていることから、武装集団に対する批判を強めていた。

◆6月12日衆院選在外投票、フィジーでの実施を中止―外務省が決定
外務省は13日公示の第42回衆院選で、在フィジー日本国大使館における在外投票を実施しないことを決めた。登録有権者数は9日現在の数字で53人だった。

◆6月12日スペイト氏が乗る車に軍兵士が発砲
ジョージ・スペイト氏の乗った車に、フィジー軍兵士が発砲する事件が発生。けが人はなかった。スペイト氏はイロイロ副大統領との会談後、要人監禁中の国会議事堂に戻る途中だった。軍は、発砲したことについて、「検問所で停止しなかったため」と説明した。約20発が発砲され、少なくとも2発が車に命中。後部窓ガラスが粉々に砕けた。武装集団側は、「軍による挑発だ」としてこれを非難。武装集団が、「軍が国会議事堂に突入すれば、人質を殺害する」と警告していたことから、タラキニキニ軍報道官はただちに、「発砲は現場兵士の過失だった」と、スペイト氏らに謝罪した。一方、人質になっている女性議員の息子が、武装集団に抗議するデモを計画していたが、軍と警察がこれを阻止した。

◆6月13日スペイト氏、文書による謝罪を要求
スペイト元実業家に対する発砲事件で緊張が高まった。スペイト元実業家は軍に対し、文書による謝罪を求め、「自分の身に何か起これば、暴動が発生するだろう」と述べた。また、インド系住民72人が島の西地区に避難、難民キャンプを立ち上げた。

◆6月14日人質、1日1食に―武装集団が狙撃に報復
スペイト元実業家は、フィジー軍から狙撃されたことへの報復処置として、人質31人への食事を1日1食に減らすことを決定した。

◆6月14日軍指令官、武装集団と交渉再開「数日中の解決希望」
フィジー軍のバイニマラマ司令官が、武装集団のリーダー、スペイト元実業家との交渉を再開した。この日再開された話し合いの後、同司令官は、「数日中の事態解決を希望している」と語った。

◆6月14日観光客激減、シェラトンホテル一時閉鎖
フィジーでは観光客が激減、5つ星の国際ホテル「シェラトン・ロイヤル・デナラウ」は稼働率が8%まで下がったとして、一時閉鎖を発表した。

◆ 6月15日 憲法の復活を発表
全権を握る軍は、5月30日に廃止した1997年憲法を復活すると発表。軍のタラキニキニ報道官は、英連邦の求める公正な政府の復活に応える措置だと説明した。同憲法は、インド系住民の政治的な権限拡大を定めており、インド系のチョードリー首相を誕生させる根拠となった。一方、オーストラリアのダウナー、ニュージーランドのゴフ、マレーシアのサイドハミド、ボツワナのメラフェ各外相で編成された英連邦代表団が15日夜、スバに到着した。

◆6月16日司令官、「武装集団を除き、近く臨時政府」を
オーストラリアのダウナー外相ら英連邦代表団と会談したバイニマラマ司令官は、「近く文民による臨時政府を作る。臨時政府には武装集団を入れない」と述べた。また、同司令官は英連邦代表団に対し、民主主義と、多民族の共生を受け入れる憲法の復活を約束したが、新憲法の制定と総選挙までには2年かかるとの見通しを示した。これに対し、ダウナー外相は、「2年は長すぎる。できる限り早く民主主義を回復することが望ましい」と語った。

◆6月18日臨時政権、武装集団推薦者入閣も
フィジー軍は、近く発足する臨時政権に、武装集団が推薦する人物も含まれる可能性を示唆した。フィジー軍のタラキニキニ報道官は、スペイト元実業家から臨時政権への入閣候補者として、20人のリストが提出されたことを明らかにし、そのリストの中からも選出されるだろうと語った。リストにはスペイト元実業家の名前は入っていない。

◆6月20日次期大統領人選、武装勢力と合意―フィジー軍
フィジー軍と武装集団は、ジョセファ・イロイロ前副大統領を次期大統領に推すなど、新大統領候補と少なくとも6名の閣僚候補の選定で合意した。武装集団の首謀者スペイト氏は態度を軟化させ、1、2名のインド系閣僚の受け入れを了承した。6名の候補者の中には、スペイト元実業家も同氏の支持者も含まれてはいないが、オーストラリアとニュージーランドは、同元実業家らが臨時政権に加わった場合、経済制裁を実施すると警告した。

◆6月21日要人監禁事件、終息に近づく
バイニマラマ国軍司令官と、先住民系武装集団の首謀者スペイト元実業家は、弁護士団を任命し、臨時政権樹立に向けた合意文書作成に入った。両者は、要人監禁事件が終息に近づいたと述べた。両者は前日までにイロイロ副大統領の大統領就任、ガラセ前上院議員の首相就任のほか、2人のインド系住民を入閣させることなどで大筋合意。臨時政権発表と、軍から新政権への権限移譲の日程について最終調整に入った。また軍は、事件によりフィジー経済が大打撃を受けたことから、8月から公務員の給与を20%カットすると述べた。

◆6月21日週内にも人質解放
スペイト元実業家は、今週中にチョードリー前首相を含む31人の人質を解放する意向を示した。

◆6月23日武装集団とフィジー軍、事態解決へ向け最終合意
フィジー軍と武装集団は、事件解決に向けた最終合意に達し、24日午前11時(日本時間同7時)に軍、武装集団、首長大評議会の3者の代表が合意文書に署名すると発表した。合意では、1ヶ月を任期とする暫定政権がつくられ、事態収拾にあたるが、この暫定政権には武装集団の支持者も入閣すると述べた。

◆6月25日女性人質4人を解放
先住民系武装集団は24日深夜から25日未明にかけ、マラ前大統領の娘のナイラティカウ前観光相を含む女性人質4人を解放した。スペイト元実業家は、彼女らの子供を学校に通わせるための人道的処置であると述べた。残る男性27人に関しては、新大統領就任まで解放しないとしている。人質は一時、全員が解放されるとされていたが、軍と武装集団の最終合意に至っていないことから、女性だけの解放にとどまった。

◆6月27日軍、武装集団に最後通告
軍は武装集団に対し、「24時間以内に同意書に署名しなければ、軍は独自に政権を樹立する」と通告した。両者は臨時政権樹立で基本合意したものの、大統領指名をめぐって意見が対立している。

◆6月29日軍、国会周辺を軍事区域に
フィジー軍は国会議事堂の周囲約2キロを軍事区域とし、周辺住民を立ち退かせる計画を明らかにした。軍事区域設定は武装集団の孤立化を狙ったもの。軍は前日、1週間以内に臨時政権樹立を発表すると述べたが、武装集団側の推す人物は排除するとしたため、武装集団側は反発を強めた。

◆7月3日新首相にガラセ氏
フィジー軍のバイニマラマ司令官は、新首相に先住民系の銀行家、ライセニア・ガラセ氏を任命したと発表した。先住民系のみで構成される臨時政権の閣僚18人の名簿も公表した。臨時政府は4日、正式に宣誓し新政権が発足する。新政権は18カ月の任期で、新憲法を制定し、総選挙を行うまでの間政権を担当する。バイニマラマ司令官は2人のインド系指導者に政権への参加を要請したが、2人は家族の安全を理由にこれを断った

◆7月4日暫定政権が発足
バイニマラマ司令官は、先住民系の銀行家、ライセニア・ガラセ氏を新首相とする暫定政権の樹立を発表した。一方、軍による臨時政権の樹立に危機感をもった武装集団の首謀者、スペイト元実業家の支持者が国会周辺で発砲事件を起こし、民間人4人が負傷する事件が起きた。

◆7月4日第2の島バヌアレブ島で軍が反乱
フィジー国軍スポークスマンは4日、同国第2の島、バヌアレブ島で国軍の一部の部隊が反乱を起こしたことを明らかにした。反乱部隊は同島の主要な町であるランバサの陸軍基地を占拠した。関係筋によると、反乱に加わった同基地の兵士の95%は、スバでチョードリー首相らの監禁を続ける武装集団のリーダー、スペイト元実業家を支持しているという。

◆7月5日フィジー武装集団に対し、軍が議事堂退去要求
同国軍は、国会議事堂周辺を立ち入り禁止区域に指定。軍は武装集団に対し、6日午前零時(日本時間5日午後9時)から48時間以内に議事堂から退去するよう求め、退去すれば、恩赦付与の用意があることを表明した。

◆7月8日武装グループ、新たに警察署を占拠
スペイト元実業家の支持者約150人が、首都スバ郊外にあるコロボウで、バイニマラマ国軍司令官から文民大統領(イロイロ氏とみられる)への全権移譲などを求め、新たに警察署を占拠した。警察官、政府関係者など、約10人が人質に取られた。

◆7月9日13日までに人質解放―軍、武装集団と合意文書
バイニマラマ司令官とスペイト元実業家が、今後の政治体制などに関する合意文書に調印した。スペイト元実業家は政治文書への調印後、「13日までに人質27人を解放する」と語り、事件が解決に向かう見通しとなった。

◆7月10日フィジー占拠合意文書調印、武装集団の要求受諾
バイニマラマ司令官は、スペイト元実業家と調印した合意文書を公表した。約2ヶ月にわたった監禁事件は解決に向け動き出したが、合意では武装集団に対する罪は問わないなど、武装集団側の要求をほぼ全面的に受け入れたものとなった。

◆7月12日法相ら人質9人解放―フィジー武装集団
武装集団は12日未明、人質27人のうち、シン法相、クマル商工相ら3閣僚と6人の議員の計9人を解放した。残された人質は、チョードリー首相ら18人となった。

◆7月13日新大統領選出へ、首長大評議会
新たに正副大統領を選出する首長大評議会の会合が13日午前、首都スバ郊外のフィジー軍の本部で始まった。選出された新大統領は、フィジー軍のバイニマラマ司令官とスペイト元実業家の間で調印された合意文書に基づき、直ちに新首相をはじめとする新政権を任命する。スペイト元実業家は首相の座にはつかず、政権を影から操る意向。

◆7月13日2ヶ月ぶりに首相ら人質全員解放―新大統領に前副大統領
先住民系武将集団は13日午後、インド系のマヘンドラ・チョードリー首相ら人質18人全員を解放し、監禁事件は約2ヶ月ぶりに解決した。同国の首長大評議会は同日、新大統領にジョセファ・イロイロ前副大統領を任命した。武装集団の首謀者、スペイト元実業家は解放の前、人質一人ひとりと握手、抱擁して送り出した。人質達は赤十字の医師から健康診察を受け、55日ぶりに自宅に戻った。解放されたチョードリー首相は、「スペイト氏に対する悪感情はないが、フィジーのためにもっと貢献したかった」と無念さをにじませた。オーストラリアのハワード首相は、「人質は解放されたが、監禁事件は犯罪行為であり、許されることではない。民主主義による政権に戻らない限り容認できない」と非難。ニュージーランドのゴフ外相も人質解放後、「これから近隣国との関係は難しくなるだろう」と述べた。両国は経済制裁にも言及しており、実施された場合、フィジーは厳しい立場に置かれることになる。EUもフィジーが民主主義政権に戻らなければ、1億5000万豪ドル(約97億円)にのぼる砂糖買い付けの見直しを決めている。英連邦もインド系住民擁護を訴えており、連邦の一員であるフィジーはインド系住民への対応次第では、国際的に孤立する可能性が出てきた。

◆7月13日先住民系による新たな占拠事件が続発
12日夜から13日朝にかけ、スペイト元実業家に刺激された先住民系による犯行と見られる占拠事件が相次いだ。離島の「ラウカラ・アイランド・リゾート」、オバラウにある「ルクルク・リゾート」、フィジー最大のナチュラル・ウォーター製造会社などが占拠され、牧場でも地元民が立てこもる事件が起きた。また前日に起きたヤサワ諸島の離島「タートル・アイランド・リゾート」では、観光客約40人は解放されたが、米国人オーナーと支配人の監禁が続いている。いずれも外国人資本によるホテルや会社で、土地所有者の先住民系の金銭的補償を求めている

◆7月14日豪首相、対フィジー関係見直しも
オーストラリアのハワード首相は、武装集団の首謀者、スペイト元実業家の動きに対し、「スペイト氏や彼の支持者が政権入りすることは受け入れがたい」と述べ、フィジーとの関係見直しを検討することを明らかにした。当面は、援助の凍結、防衛協定の停止となるとみられる。

◆7月14日新大統領、武装集団に免責
バイニマラマ司令官から全権を引き継いだジョセフ・イロイロ新大統領は、武装集団に対し、軍との合意に基づいて免責を与えた。これにより、武装集団は武装を解除、国会を明け渡した。道路や空港などの封鎖も解かれた。またイロイロ大統領は、首長大評議会の決定を受けて暫定政権の新首相に元銀行家、ライセニア・ガラセ氏を任命した。暫定政権の閣僚は来週、イロイロ大統領と、この日任命されたジョぺ・セニロリ副大統領によって指名される。

◆7月15日チョードリー首相、解任の不当性を主張
監禁中に首相職を解任されたチョードリー氏は、自身の政権の正当性を訴えた。解任は武装集団と、実質的に政府の役割を担う軍の合意による。同氏は政権復帰に向け、国際社会に支援を求めていくと述べた。

◆7月17日NZがフィジー制裁発表
ニュージーランド政府は、先住民系武装集団の主張をほぼ全面的に受け入れたフィジーに対する制裁を発表した。制裁は一定期間で、海軍船と高官の訪問の一時停止、国防軍の共同演習、計画の破棄など軍事関係の見直しや、開発援助の半減、政府が支援する新留学生の停止など。また、スペイト元実業家の支持者の入国拒否も決めた。

◆7月18日暫定内閣、新大統領が就任
ジョセファ・イロイロ新大統領が正式に就任した。同大統領は「フィジーにいる多くの民族を再び統一していきたい。われわれは一つの国家、一つの国民である」と語った。同大統領は、元銀行家のライセニア・ガラセ氏を新首相とする暫定内閣を任命した。大臣20人、副大臣11人で発足した暫定政権の任期は2年。暫定内閣では、多民族担当相が設置された。新閣僚にインド系は含まれていない。スペイト元実業家の推すエペリ・ナイラティカウ氏は副首相に任命された。閣僚に指名された人のうち、インド系住民は家族の安全を理由に就任を断った。先住民系で構成する内閣となったが、スペイト氏支持者の入閣は少数だった。スペイト氏は同日、「閣僚の中に、先住民より、国際社会の意見を優先する者がいる。期待と信頼を裏切った」と語り、新政権の受け入れを拒否する姿勢を示した。同氏は近く、イロイロ大統領と会談すると述べた。一方、オーストラリア政府は、フィジーに対する制裁措置を決め、共同軍事行動の停止、五輪を除くスポーツ交流の停止などをあげた。しかし、フィジー経済と周辺国への影響を考慮し、経済的な制裁は含まれなかった。オーストラリア政府はまた、在フィジー総領事館を一時閉鎖。スペイト氏と支持者に対し、オーストラリア入国ビザを発給しないことも決めた。 新閣僚は以下のとおり
新政府閣僚リスト (フィジー政府プレス・リリースより)

1.首相…ライセニア・ガラセ(フィジー商業銀行総裁)

2.副首相兼フィジー系問題大臣…ラトゥ・エペリ・ナイラティカウ(前移動大使、元軍司令官、元外務次官)

3.法務大臣兼司法長…アリパテ・ゲタキ(前法務省次官)

4.大蔵・国家計画大臣…ラトゥ・ジョネ・クンブアンボラ(前準備銀行総裁)

5.内務・移住大臣…ラトゥ・タレモ・ラタケレ(前上院議員)

6.女性・文化・社会福祉大臣…ロ・テイムム・ケパ

7.事業・エネルギー大臣…ラトゥ・イノケ・クンブアンボラ

8.労働・産業関係大臣…ラトゥ・テヴィタ・モモエドヌ

9.商業・ビジネス開発・投資大臣…トマシ・ヴェティロヴォニ(前コロニアル・バンク社長)

10.教育大臣…ネルソン・デライロマロマ(フィジー訓練評議会行政官)

11.情報・コミュニケーション大臣…ジョケタニ・ゾカナシガ

12.観光・運輸大臣…ジョネ・コロイタマナ(前航空局局長)

13.公営企業・公共部門改革大臣…へクター・ハッチ(フィジー雇用者連盟会長)

14.青年・雇用機会・スポーツ大臣…ケニ−・ダクインドレケティ(資産価格査定官)

15.外務・貿易・砂糖大臣…カリオパテ・タヴォラ(前EU大使、砂糖公社マーケティング副委員長)

16.保健大臣…ピタ・ナズヴァ(前駐米大使、元観光省次官)

17.地方政府・住宅・環境大臣…ラトゥ・トゥウアキタウ・ゾカナウト

18.農林水産・ALTA大臣…アピサイ・トラ

19.地域開発・多民族問題大臣…ラトゥ・イノケ・タキヴェイカタ

20.土地・鉱物資源大臣…ミティエリ・ブラナウザ

(基本資料は FIJI Times、Pacific Islands Report、Fijilive.com。その他 BBC、 CNN、USP 情報も参考)