PACIFIC WAY
  インタビュー

     
ツバルの現状と進路 〜ソポアンガ首相に聞く〜
  


去る12月11日から7日間の日程でツバルのソポアンガ首相が来日した。ソポアンガ首相は5月の島サミットには内政事情により欠席しており(ネレソネ官房長官がツバル代表として参加)、首相就任後は初の来日である。同首相は滞在中、小泉総理をはじめ政府要人等と精力的に会談を行い、日本とツバルとの更なる友好・協力関係強化を図った。
 当研究所では、長年ツバル政府中枢にあり、現在国のトップとしてツバルの将来を担っているソポアンガ首相に対し、この機会をとらえ国の現状や課題等についてインタビューと意見交換を行った。本稿はそのインタビュー内容を要約したものである。なお構成は当研究所の責任で行ったことを付記しておく。
 
Q:まずはじめに、今回の訪日の目的についてお聞かせ下さい。
 今回の訪日は、ツバルと日本の友好親善を深めることが大きな目的です。特に、ツバルの将来を考える上で大きな経済的課題である漁業振興やエコ・ツーリズムの開発について、日本のみなさんに知っていただき、ご支援をお願いしたいと思い来日しました。

Q:滞在中は小泉総理をはじめ政府要人と精力的に会談をこなされたと伺っていますが、成果のほどはいかがでしたでしょうか?
 小泉総理には15日の朝お会いしました。ちょうどサダム・フセインが身柄を拘束された翌日で、たいへんお忙しい中での会談となりましたが、予定時間を超えてお話をすることができ、ツバルのことを詳しく知っていただくことができました。またその他にも外務省のご尽力で環境大臣や農水大臣ともお会いすることができ、たいへん有意義な来日になったと思っています。
 
Q:小泉総理との会談についてはすでにマスコミで報じられていますが、「温暖化問題でツバルが支援を要請した」という内容でした。この問題で具体的には日本にどのような支援を期待なさっているのでしょうか?
 温暖化阻止に向けて世界が真剣に取り組むよう、国際社会の中でリーダーシップを発揮していただきたいということにつきます。先進国の中にも、また途上国の中にも温暖化対策に消極的な国々があります。そうした国々へ日本として様々な機会を捉えて強く働きかけをお願いしたいと考えています。我々が「お願いした」というと、「またなにか無償援助がほしいのか」、と勘ぐられる方もいるかもしれませんが、そういうことではありません。まあ日本の先端技術をもってすれば、或いはツバルを温暖化の影響から守るような構築物ぐらいできるかもしれませんが(笑)。
 
Q:ツバルは温暖化による水没の危機に直面している国として、日本でもしばしばメディアに取り上げられています。実際のところ、ツバルは今どういう状況で、人々は将来についてどう考えているのでしょうか?
 現実的にツバル周辺水域の海水面が上昇しているというデータが出ており、生活していてもそれによる被害が目に見える形で様々に出ています。たとえば以前にはあり得なかったことですが、ここ10年ほど大潮の際に島の中央部まで冠水するようになりました。特に主島のフナフチがひどいのですが、環礁内の無人島の中には土壌流出により島そのものが失われてしまったものも出ています。
 こうした現状に国民は大きな不安を抱いており、国際社会全体が協力して早急に温暖化対策を講じていただくことを強く希望しています。温暖化による海水面の上昇は一夜にして起こるのではなく、極めて長い期間をかけて徐々に進行していきます。今、特に二酸化炭素排出量の大きな先進国が対策を講じないと、ツバルは今後ますます危機的な状況に陥ると心配しています。

Q:次に政局の質問なのですが、ツバルは今年秋頃まで、与野党逆転による政権交代の可能性が取りざたされていました。現在の状況はどうなっているのでしょうか?
 確かに10月まで我々は少数与党となって苦しい状況が続いていました。しかし幸い10月10日に野党側から2名の議員が我々のグループに参加することになり、現在は議会の構成は与党側9対野党側6となっています。従って現在政権は安定しており、この問題による懸念は払拭されたとみています。
 
Q:そうした中で11月に1年ぶりに国会が招集されたと聞いています。11月国会での主な議題とその成果をお教え下さい。
 11月国会では来年度予算の審議と、そして今後4年間の国家開発戦略について議論しました。たいへん有意義な議論ができたと考えています。
 
Q:その国家戦略とはどのようなものですか?
 中身は行政改革から法制度の整備、そして教育、保健、環境分野まで多岐にわたっています。そうした中で現在直面している重要な課題のひとつに、国際的な自由貿易化の流れの中でツバルがいかに対処するかという問題があります。特にツバルは財政収入の大きな部分を輸入関税に頼っていますが、現在PIF諸国内ではこれらを撤廃する方向で動いています。ということは、今後ツバルがどうやって収入を確保するかというのは極めて重要な課題となっているわけです。そして現在我々が考えている方策の中で最重点分野と位置づけているのは漁業開発です。
 
Q:具体的にすでにプランはあがっているのですか?
 すでに韓国から100トンクラスの2隻の漁船が供与されることになっており、来年早々にもツバルに引き渡される予定です。これら漁船を使って国営漁業公社が操業を行う予定です。漁業開発についてはこのほか台湾にも支援をお願いしていますが、特に日本には是非とも協力していただきたく、大きな期待を寄せています。今回も政府の方々に理解と協力を訴えてきました。
 
Q:太平洋諸国では漁業振興に期待する国が多い一方で、様々な困難が伴っており、なかなかうまくいっていないのが現状です。国内市場が小さい中で輸出産業としての漁業をお考えと思いますが、特にツバルのような地理的条件だと、輸送費の問題は大きなネックになると思われるのですが。
 現在考えているのは、人口が集中している主島フナフチではなく、別の島に漁業基地を整備し、そこから直接輸出できないかということです。具体的にはヌクフェタウ島には太平洋戦争中に米軍が作ったフナフチよりも長い滑走路があります。こうした島の施設を整備し、鮮魚を輸出できるシステムを構築したいというのが我々の考えであり、こうした点も含めて日本にも是非協力をお願いしたいところなのです。
 
Q:野心的な計画ですね。ただインフラ整備となると無償援助ということになりますが、ツバルが日本に協力を要請しているのはそればかりではないと聞いています。現在日本の経済協力は削減傾向にあり、率直なところそう簡単に日本政府から援助が得られるとは思えないのですが。
 日本政府サイドからも一定の理解は得られたと思いますが、確かに経済援助の現実についてはそのように説明も受けました。現実的にあれもこれもと一度に要請すべきではないし、実際全部いっぺんに承認いただけるものではないでしょう。ただ中長期的にみて漁業振興がツバルの将来のカギを握っていると考えており、そうした考え方に基づく計画と期待があることは、今のうちからお話ししておくことは有意義だと考えています。
 現在漁業に関してツバルは、外国漁船の入漁に伴うわずかな入漁料収入があるだけです。これを自らの手で行うことはツバルにとって大切なことなのです。

Q:漁業にも関連する話なのですが、日本は持続的水産資源管理のためにも絶滅の危機に瀕する鯨種以外のクジラについては捕鯨を解禁すべきだと主張しており、他方オーストラリアやニュージーランドは捕鯨には絶対反対の立場をとっています。捕鯨問題についてのツバルの考え方はいかがでしょうか。
 オーストラリアやニュージーランドは南太平洋捕鯨サンクチュアリーを設定する運動を推進しており、ツバルに対してもEEZ内を捕鯨サンクチュアリーとするよう、折に触れ強く迫っています。しかし我々にとっては生きる糧である水産資源を持続的に活用することが最優先事項です。この点で大量のサカナを捕食するクジラが増えすぎることは決して好ましいことではありません。最初の話題にも関連しますが、オーストラリアやニュージーランドは「クジラを守れ」といいますが、オーストラリアは京都議定書に反対の立場をとっており、我々としてはその前に「ツバルを守れ」と言いたいのが本音です。
 いずれにせよ、科学的データ等の収集をしつつ、捕鯨の問題は慎重に検討したいと考えています。

Q:ツバルにはドメイン名(「.tv」)販売やツバル信託基金による収入などユニークな財源がありますが、これらの状況はどうなっていますか。
 ドメイン名販売については現在年間220万米ドル程度の収入を得ています。この利益によってインフラ整備事業などを実施してきました。ただ長期的にみると安定財源として計算できるものではないと考えています。またツバル信託基金については昨今の株安でここ3年間は基金からの予算繰り入れがゼロになっているのが現状です。こうした現状もふまえて、我々としては漁業開発に活路を見いだしたいと考えているところなのです。
 
Q:これまでツバルからは多くの人がナウルに出稼ぎに行っていましたが、リン鉱石の枯渇によって多くのツバル人が職を失い帰国していると聞いています。こうした問題のツバルへの影響はないのでしょうか。
 一部まだナウルに残っている者もいますが、多くのツバル人がすでに帰国しています。彼らは各出身島に帰り、再び自給自足をベースにした生活に戻っています。幸い彼らには土地があり、また豊かな漁場を持つ海があります。ただ帰国はしたものの、賃金や積立金などは未払いのままになっており、これらの回収は彼らの大きな関心事です。一部には肩代わりして支払ってくれとツバル政府に要求する者もいますが、それはお門違いというところでしょう。ただ政府としても懸念はしており、数週間前にナウル側に善処を要請しました。ナウル側は何とか資金を捻出して2004年1月をメドに支払いたいと言っていましたが、ナウルの現状をみると、どういうことになるか、予断は許さないかもしれません。
 
Q:長時間どうもありがとうございました。
 最後に日本の皆さんには、これからもツバルと日本との良い関係がますます発展するよう、よろしくお願いしたいと思います。また是非機会を作ってツバルを訪れてくださることを期待しています。
(聞き手:小林泉/小川和美 構成:小川和美)
 
【ソポアンガ首相略歴】
サウファトゥ・ソポアンガ(Saufatu Sopoanga)。1952年2月22日生まれの51歳。1975年からツバル政府に勤務し、各省局長・次官を歴任、その間イギリスのリバプール大学で行政学の修士号を取得している。1996年から官房長官。2000年11月の総選挙に立候補して当選、2001年12月から大蔵・経済企画大臣兼観光・貿易・商業大臣を務めた後、2002年8月に首相に就任。外務・労働大臣も兼務している。
 

【写真:奥右側から、ソポアンガ首相、ネレソネ官房長官、ラウペパ外務次官補】

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