この8月4日から7日にかけて、豪州のケアンズで40回目の太平洋諸島フォーラム(PIF)首脳会議が開催された。今年は、気候変動、海洋資源利用、地域安全保障などが主要テーマとなった。
1971年に南太平洋フォーラム(SPF)としてスタートしてから38年、その間に名称がPIFに変わり、加盟国も16ヵ国に増加した。それに伴って組織の有り様もまた、変質しつつある。歳月を重ねた島嶼国自身の展開やそれを取り巻く国際状況の変遷を考えれば、変化は当然であろう。静かな太平洋とはいえ、現実には時代の激波を逃れることなどできないのだから。
フィジーの初代首相カミセセ・マラが提唱したこのフォーラムは、独立島嶼国が集まって、旧宗主国や近隣先進国にその存在をアピールし、「パシフィック・ウェイ」を合い言葉に、地域団結をはかるための象徴的組織となった。しかしその組織も、今世紀に入るころから徐々にその団結力に綻びが出はじめる。それは第一に、地域進出が著しい中国・台湾への各国の対応の違い、第二に、域内先進国である豪州、NZの強い思惑、これらが島嶼諸国の団結を乱す主たる要因となったからだ。それが形としてはっきり現れたのが、今年のケアンズ会議だろう。発足以来の主要メンバー国フィジーが、会議への出席を拒否された。首脳が自己都合で欠席したケースは過去にもあったが、メンバー国の排除行為はPIF史上初めてになる。
これは今年の初めに、PNGで開催された特別首脳会議での決定に基づいている。暫定軍事政権下にあるフィジーは「2009年末までに選挙を実施し、憲法に基づく政府を発足させること」、「5月1日までに選挙日程を示すこと」、これが実行されない場合は、加盟国資格を停止するというもの。これに対してフィジーのイロイロ大統領は、現行憲法を破棄して暫定首相のバイニマラマ軍司令官を首相に任命した。さらに、選挙制度の改革後、2014年9月までに選挙を実施して民主政府を発足させると発表したのである。しかし、「そんなに長い軍事政権は、けしからん。大統領もバイニマラマの傀儡で、これでは軍事独裁政権そのものだ」とPIFのタランギ議長が判断し、特別会議での決定事項をそのまま実行に移した。
これまで島嶼諸国は、フィジーが過去に起こした軍事クーデタ時も、内乱により政権が壊れたソロモン諸島の政治危機時代も、「国内の政治問題は、制裁などをもって外部介入すべきではない」との立場をとり続けてきた。なのになぜ、ここへ来て方針が変わったのか? そこには、旧宗主国でありながら、PIFメンバー国になっている豪州、NZの強力な圧力があったからに他ならない。実際には島嶼諸国のほとんどが、フィジー排除などを良しとしていないのにである。私がそう言い切れるのも、この5月の島サミットで来日した島嶼諸国首脳らと、私自身が会話した時の確かな感触があるからだ。
島嶼首脳の中で、「フィジーの現軍事政権を認めるべきでない」と明確に発言してきたのは、タランギ議長(議長期間は08/8〜09/8の1年間)とサモアのトゥイラエパ首相の二人だ。タランギは、NZの自由連合国であるニウエの首相であり、彼の思考も立場もNZの代弁者そのものと言っていい。トゥイラエパは、「フィジーにあるPIF事務局をサモアに移転させたい」との思惑から、フィジーの政治現状を非難しているのだとの見方もある。一方で、メラネシア・スピアヘッドグループ(加盟国:パプアニューギニア、ヴァヌアツ、ソロモン、フィジー)は、7月の会合でフィジーのPIF復帰支持を表明した。キリバス、ミクロネシア連邦、そしてトンガの首脳らも、フィジー排除は適当な措置ではない由を個別に表明している。島嶼諸国内では、こうした声は多数派だ。にもかかわらず日本政府が、先の島サミットにフィジー首相を招かなかったのは、豪州、NZと同じ視点に立ったからだろう。私には、それが残念だった。日本は島サミットの主催者であり、PIFのメンバー国ではない。それゆえ、フィジーの実情を見据えた独自判断があっていいと思うからだ。
私がそう言ったら「豪州、NZの圧力などない。自らの判断だった」と政府関係者に言われた。さらに、「フィジー排除を思考していないのなら、なぜにPIF会議で資格停止条件が決議されたのか?」、「島サミット開催に先立ち、各国に意見を聞いた際に、何故に意見表明をしなかったのか?」とも反論された。それは事実だろう。しかし、こんなところに、PIFの実態、島嶼諸国が置かれている立場が透けて見えるではないか。メンバー国の中で、圧倒的な力の差がある豪、NZの目前では、自由に思ったことを発言出来ない極小国家の立ち位置を、部外者である日本だからこそ知るべきだ。良きにつけ悪しきにつけ、こうした部分に理解を示して入り込もうとしているのが中国外交であることも知っておくといい。PIFという組織が、このまま豪、NZに引きずられれば、内部での島嶼国間の足並みの乱れはますます加速する。そうなれば、太平洋・島サミットで築きあげようとしてきた地域結束自体が難しくなる。それでは日本が困るのだ。 (小林 泉)