『もうひとつの戦後史 南の島の日本人』
小 林 泉 著
「南の島」この言葉にはどこか、そこはかとないロマンの香りが漂う。明治から大正期、そして国策的膨張主義の昭和前半期にかけて、沢山の日本人がミクロネシアに渡った。まさに、南洋漫画『冒険ダン吉』的世界だったろう。が、その現実はロマンの具現化とばかりはいかなかった。そんな彼らの末裔は、地域人口約20万人のうちの2割超。とはいえ、彼ら彼女らを想起する今どきの日本人は極めて少ない。敗戦とともに、日本に棄てられ忘れ去られた人たちだったからである。しかし、このままではまずい。だから私は、かつて日本人であった彼らの存在を、どうしても知って欲しかった。
著者のことばより
ミクロネシアには、元プロ野球の投手で、トラック諸島に帰島してから大酋長になったススム・アイザワ、国連信託統治時代にミクロネシア議会の議長になり、ミクロネシア連邦を建国して大統領になったトシヲ・ナカヤマがいた。
本書は、この二人の日系人の物語を軸に、明治以降、日本人が南洋に渡り、その結果として多くの子孫を残していったその経緯を綴っている。
島々に渡った日本人はもちろん、彼らの子供たちの人生は、太平洋戦争の敗戦でガラリと変わった。すべての日本人は強制送還され、残された子供たちは日本人からミクロネシア人へと国籍を変えられたからだ。ミクロネシアの日系人と呼ばれる人たちである。
もと日本領であったミクロネシアは今、三つの独立国と一つの米領に成ったが、これまでそれら国々から6人もの日系大統領が誕生したのだという。パラオやポンペイに行ったとき、日本名の人にも随分出会ったし、けっこう日本語が通じて驚いた。この本を読めば、「あぁ〜、そういうことだったのか」と良く事情が飲み込めたが、いままでそんな身近な歴史さえも十分に知らなかったことを恥ずかしく思った。そんな無知を他人に気づかれぬうちに、読んでおきたい一冊である。
(四六判並製 230頁 産経新聞出版/2010年8月14日発行 定価:1680円税込)
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