2009年1月15日にジャンセン・トリビューン氏がパラオ共和国大統領に就任してから2年半以上が経過した。来年2012年は、正副大統領及び国会議員の選挙の年である。既に、選挙に向けての動きが始まっている。そうした状況も含めて、パラオの近況を簡単に報告する。
〇締結に至らないコンパクト経済援助延長協定
前号の本誌で報告した通り、パラオとアメリカは2009年9月31日に終了したコンパクト(自由連合協定)に基づく経済援助延長協定に昨年9月3日合意、調印した。米国の中間選挙のため、米国での承認手続きが遅れていたが、中間選挙の結果、小さな政府・緊縮財政を求める共和党が下院で多数を占めるねじれ現象が生じた。トリビューン大統領は、6月16日米国上院の自然エネルギー資源委員会に出席して供述を行ってきた。しかし、その後米国内はデフォルト回避のための連邦債務上限引き上げを巡って民主党と共和党の激しい駆け引きが展開され、未だに米国議会での承認は得られていない。なお、パラオ国会サイドも承認を与えてはいない。
〇2012年度予算案
トリビューン大統領は、2012年度予算として、約5900万ドルを議会に提出した。この額は、2010年度支出のおおよそ10%アップである。トリビューン大統領は、厳しい経済状況を受けて、大統領就任以来、基本的には緊縮予算を組んできた。来年度予算に関しては、2009年度調査で世帯収入が0であった世帯に月100ドルを支給することが盛り込まれている。
これは、元々、トリビューン氏が2008年の大統領選で掲げていた政策である(本誌2009年2月号通巻133号「ジャンセン新政権スタート」参照)。今までも、この政策については言及してきていたが、実行されておらず、国民からは「言うだけ」との声も聞こえている。これに対し、大統領としての第1期最終年度であり、選挙の年に当たる2012年にはこれを実現すべく予算案に組み込んだ。今後、議会の議論のなかで、どのような結論になるかは全く不明であるが、議会により拒否されたとしても、トリビューン大統領としては2008年の公約を実現すべく行動したことを国民に示すことになる。選挙の年の予算だけに、議会側がどう対応するのか注目されるところである。
〇選挙に向けて
2008年の選挙は、その前の憲法改正により、正副大統領がランニングメイト制となり、国会議員は任期制限により上下両院併せて3期を超えては立候補できなくなっていた。しかし、2008年の選挙と同時に行われた憲法改正の国民投票で、正副大統領のランニングメイト制は廃止され、国会議員の任期制限もなくなった。結局、2012年の選挙は、以前のパラオの選挙と同じパターンになる。前回立候補を見送らざるをえなかった人たちが相当数立候補することが予想される。
2012年度予算に見られるように、来年の選挙を見据えた動きは既に始まっている。8月頭には、トリビューン大統領は地元アイライ州で選挙に向けての集会を行い、選挙運動を開始している。
トリビューン大統領以外には、前回トリビューン氏に惜敗したカムセック・チン上院議員、前回の大統領選では予備選で敗退したスランゲル・ウィップス・シニア氏、前大統領のトミー・レメンゲソウ上院議員が現段階で大統領選に名乗りを上げている。
〇その他
(@)グリーンフィー値上げ法案
現在、出国時に出国税(20ドル)と共に徴収されている環境税15ドル(2009年11月1日から実施)について、来年1月から倍額の30ドルに値上げする法案が提出されている。これが通ると、出国時に1人45ドルの支払いが必要になる。4人家族だと180ドルになり、円高とはいえ相当な負担である。
(A)カヤンゲル海底油田調査
カヤンゲル州のベラスコリーフにおける海底油田調査は、2008年末までは、環境を重視する前大統領トミー・レメンゲソウ氏により凍結されていたが、トリビューン大統領は調査を積極的に認めている。調査を行っている会社との現在の契約は、2012年末までであり、この延長を巡って、消極的なカヤンゲル州議会と積極的なトリビューン大統領等との間で綱引きが行われている。
(B)カジノ法案
パラオ政府発足以来、色々な形でカジノを認める法案が出されてきたが実現しないままであった。今国会になって、あらためてカジノ法案が提出され、反対派との間で激しい論争が繰り広げられていたが、6月22日に国民投票が行われ、75%強の反対(投票率31%)でカジノ法案は葬り去られた。